【漫才】キョンシーの女子大生が計画した県外ドライブ
ボケ担当…台湾人女性のキョンシー。日本の大学に留学生としてやってきた。
ツッコミ担当…日本人の女子大生。本名は蒲生希望。キョンシーとはゼミ友。
ボケ「どうも!人間の女子大生とキョンシーのコンビでやらせて頂いてます!」
ツッコミ「私が人間で、この娘がキョンシー。だけど至って人畜無害なキョンシーですから、どうか怖がらないであげて下さいね。」
ボケ「どうも!留学生として台湾から来日致しました。日本と台湾、人間とキョンシー。そんな垣根は飛び越えていきたいと思います。」
ツッコミ「いやいや、両手突き出して飛び跳ねなくて良いから!」
ボケ「実はさ、蒲生さん。私には今度の休みにやってみたい事があるんだよ。」
ツッコミ「おっ、良いじゃない!大学生活は色んな事にチャレンジしなきゃ。青春時代ってのは人生に一度しかないからね。」
ボケ「アハハ、『人生に一度しかない』だって!私もう死んじゃってるんだよ。何しろキョンシーだから。」
ツッコミ「人がせっかくいい話してんのに、話の腰を折らないでよ!それで貴女がしたい休みの用事って何なの?」
ボケ「今度の休みに県外までドライブしてみたいんだよ。日本に来て国際免許を申請したのは良いけど、まだ近場しか走ってないからさ。」
ツッコミ「休日のドライブとは良い趣味じゃないの。だけど貴女って免許なんか持っていたの?」
ボケ「変な事言わないで、ちゃんと持ってるよ。ほら、この通り。」
ツッコミ「うわぁ、免許の証明写真も顔が真っ青だ…」
ボケ「免許センターの人を説得するのも大変だったよ。『あんまり派手なメイクをされていると本人確認が出来ないので、証明写真になりません』って言ってくるんだもの。」
ツッコミ「そりゃ仕方ないよ。こんなチアノーゼも真っ青な顔色じゃ。」
ボケ「それで仕方ないから思い切って言ったんだ、『私はキョンシーだから、これが地顔なんです』ってね。どうにか納得してくれたけど、凄く驚いていたよ。」
ツッコミ「免許センターの人もよく信じてくれたね。」
ボケ「偶然にも免許センターの近くで交通事故があってね。瀕死の重傷を負った被害者の首に噛み付いて、キョンシーとして生き返らせてあげたんだ。これを見たら免許センターの人も信じざるを得なかったよ。」
ツッコミ「成る程、噛みついてキョンシーに!それは良い事をしたね…って、良くない!何をサラッととんでもない事をしてんのよ!」
ボケ「だってあのままだと確実に死んでたよ、あの人。人工呼吸やAEDをする時も躊躇したらダメだって言われてるじゃない。」
ツッコミ「人工呼吸やAEDと一緒にして良いのかな…」
ボケ「人助けには貢献出来たし免許センターの人も説得出来たし、一石二鳥だね。」
ツッコミ「助けた事になるのかな、それ…そのキョンシーになった事故の被害者はどうなったのよ?そのキョンシーが人を襲ったら責任取れるの?」
ボケ「それは大丈夫。割と穏やかな人だったから、人間を襲う心配はないよ。その人はヘビメタ系のバンドマンだから、『顔を塗らなくて済むようになった』って喜んでたね。」
ツッコミ「それなら良いけど…ところで車は持ってるの?免許があっても車がないとドライブにならないよ。」
ボケ「それは大丈夫…と言いたい所だけど、流石にマイカーまでは持ってないからね。レンタカーにしてみたよ。」
ツッコミ「へえ、どんな車を借りたの?」
ボケ「これがなかなか良い車を借りる事が出来たんだよ。黒い乗用車だけど、割と高級な車種なんだ。」
ツッコミ「へえ、女子大生にしてはなかなか渋い趣味だね。」
ボケ「車体後部には横になれるスペースもあるよ。」
ツッコミ「ドライブに疲れたら仮眠も取れるんだ。それはなかなか便利じゃない。」
ボケ「それにデザインも凝っていてるからね。車体後部には豪華な屋根まで付いてるんだよ。」
ツッコミ「へえ、豪華な屋根…って、それって霊柩車じゃない!」
ボケ「その屋根が私の地元の台南市にある御廟にそっくりでね。このデザイン性の良さに一目惚れしたからこそ、レンタルに踏み切ったんだけど。」
ツッコミ「いや、何処の世界に宮型霊柩車でドライブする人がいるのよ!」
ボケ「蒲生さんも頭が固いなあ。今じゃ日本の宮型霊柩車は、海外だと大人気なんだよ。私の地元の台湾でも、宮型霊柩車が走ってるの。アメリカやヨーロッパのカーマニアの熱い注目を集めてるし、イベントにも引っ張りだこなんだよ。」
ツッコミ「頭が固いっていうけど…そういう貴女は身体が固いじゃないの。」
ボケ「そりゃ私はキョンシーだからね。こうやって両手を前に突き出しているのも、要は死後硬直だもん。」
ツッコミ「何を呑気な事を…そんなのでちゃんと運転なんて出来るの?」
ボケ「これがなかなか便利でね。真っすぐ伸ばしているから、8時20分の位置でハンドルを握りやすいんだよ。」
ツッコミ「おおっ!硬直しているから凄く良い姿勢じゃない。だけど、そうして姿勢を伸ばしたままだと疲れないかな?」
ボケ「やだなぁ、蒲生さん。私はキョンシーだよ。もう死んでるから、疲れも何も関係ないもん。」
ツッコミ「それは何とも便利な話だね。それなら眠気覚ましのコーヒーやガムもなくて済むんじゃない?」
ボケ「コーヒーは飲まなくても大丈夫だけど、運転の途中でスタミナドリンクを飲む事ならあるね。蒲生さんも飲んでみる?これを飲んだら精がつくよ。」
ツッコミ「何これ?牛乳みたいだけど少し赤黒いような。」
ボケ「それは牛乳と牛の血のカクテルだよ。」
ツッコミ「えっ、牛の血?!」
ボケ「アフリカのマサイ族の伝統的な飲み物を真似してみたんだ。スッポンの血でも良いんだけど、あれは高いからね。」
ツッコミ「そっか、貴女はキョンシーだから血が好物なんだね。」
ボケ「まあね、蒲生さん。飲み物としてやるのも良いけど、固体も悪くないね。餅米を豚の血で固めた米血糕とか、鴨の血を固めた血豆腐だって大好きだよ。」
ツッコミ「米血糕に血豆腐、どちらも台湾の郷土料理だね。そういえば貴女、台南市で生まれ育ったんだっけ。」
ボケ「その二つに関しては人間だった頃から好きだったけどね。人間だった頃もコンビニとか夜市とかでよく買い食いしたっけなぁ。日本のコンビニにはあんまり売ってないから困っちゃうんだよね。」
ツッコミ「なるほど、じゃあ今回のドライブの行き先は神戸の元町中華街にする?そこなら米血糕も気軽にテイクアウト出来るんじゃない?」
ボケ「神戸は国際色豊かな町だから、色んな国の人が行き来していて刺激的だよね。グルメだけじゃなくて、良い勉強の機会になりそうだよ。」
ツッコミ「留学生でキョンシーという属性盛り盛りの貴女が、一番刺激的だよ。」
二人「どうも、ありがとう御座いました!」