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泥の誉れ

作者: 純愛文庫

初めて書きました



━あぁ、いつかお腹いっぱいになるまでご飯食べれられるかな━



素直にそう思った。



この世界は生きることが難しすぎる。

生まれてこの方12年、僕の人生は絶望すぎた。

他人のことなんてどうでも良く、見知った人間から次々いなくなる。


「今日の作業はこれまでか」


僕は仕事の日課であるゴミ掃除を終えると雇い主の所に挨拶をする。


「今日の分の作業、終わりました」

「お疲れさん、駄賃はこれだよ」


不躾かもしれないが駄賃の金額を確かめた。

金額は少ない。ただ、たかが子供に出す額としては十分だ。


「ありがとうございます」


いつものように家であるあばら屋に戻ろうとすると雇い主に引き止められた。


「なぁ、ちょっといいかい」

「あ、はい。どうしましたか?」


珍しいこともあるものだ。この人は機嫌が良ければいつもの通り愛想が悪く、機嫌が悪ければもっぱら無視をする。


「実はあんたのゴミ掃除の様子を見て、あんとと話したいって奴が来た。紹介料を貰ったからね、伺いをたてた訳だ」


なるほど。金が貰えるなら誰だってそうするだろう、金額が良ければ尚更だ。


「それで、僕はどうすればいいですかね」

「そんな難しい話じゃない。もう少し待てばそいつがここに来る、来なくてもうちは関係ないがね」


昼の時間まであと少し。ご飯は後回しでいいだろう。


「それじゃあここで待たせてもらいます」

「そうしてくれ」


そういえば、この雇い主とは付き合いは長いが、こんなに話すのは仕事を貰った時以来だろう。

小汚い子供に仕事をくれとせがまれる、その時の困惑を想像することは難しくない。僕のどこを見て雇うときめたのだろうか。


そんなことを考えていると来店を知らせる合図とともに店の扉が開いた。


「やぁ店主、この子が例の掃除の子かな?」


僕はひと目見て、来訪者が裕福な人間なことがわかった。恰幅の良い体つき、小市民が身につけることのない服装、おまけに豪勢に宝石をあしらった金のアクセサリー。どれもこれも人を買うのには向かない服装、正直ホッとした。


「そうですよ、旦那」

「それならいい」


来訪者は貴族然とした目で僕に視線を向けると、一言。


「君はいい目をしている、絶望した目だ」


この都市は絶望した者から消えていく。それは不文律として定められている。

経験として感じてしまった、あまりある人生の差に。


「君と話したいことがある、店主この子を借りても?」

「どうぞどうぞ」

「では、ここでは話しづらい。場所を変えよう」


僕の返事も待たず、店から出ていってしまった。慌てて追いかける。


道すがら来訪者の男に話しかけられる。


「君はどう思う?この都市を」

「━━周りを見渡すと生気のない目をした人がたくさんいる。」

「そうだ、それが私には悲しくてならない。」


そんなことを言ったって無駄だと思う。なぜならば人々は搾取に慣れすぎている、社会を変える力を人々は持たない。


「もし、もしだ、君の生活を変えられるとしたらどうする?君はその選択肢を選ぶかな?」


うまく考えがまとまらず返事が遅れてしまった。気づくと男は歩くのをやめていた。いつのまにか目的地に着いていたようだ。


「選ぶでしょうね。もし、変えられるなら」


「よろしい、問おう。」


「君はなりふり構わず、悪口を言われようが、泥水を啜ろうが、はたまた知人が目の前で殺されようが、社会を変えるために奔走する覚悟があるか?」


「はい」


「勇気があるね。それでは今日から君は我々の仲間だ。さぁ、建物に入ろう」


自分の境遇を振り返る。親に捨てられ、ご飯は食べられない。こんな生活は嫌だった。

だけど、この男に着いていったら、いつかは今の生活に戻りたくなる時が来るかもしれない。そのときはこの問答で思い出すことにしよう。自分の覚悟を。


ちっぽけな男の「泥の誉れ」として。


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