表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/10

壊滅

浸水した漁村オウルに到着したのは、深夜のことだった。

津波が引いた後の村は、家々が半ば水に浸かり、泥にまみれた瓦礫が道を塞いでいる。

人々は混乱の中でわずかな荷物を抱え、家族と共に避難を急いでいたが、その足取りには疲労と絶望が漂っていた。


ヴィルホは水際に立ち、潮風に髪を揺らしながら静かに周囲を見渡していた。その視線の先には泣き叫ぶ子供を抱き、高台に向かって歩く母親の姿があった。


「これが……津波の被害か」


彼の呟きに、背後でレズリーが近づく。彼の目は瓦礫と化した村を冷静に観察していた。


「村はまだ完全には沈んでいません。しかし……」


レズリーが言葉を選んでいる最中、沖合から不気味な音が響いた。深く、唸るような音だった。それは波の音ではなく、何か別の存在を予感させる音。


ユーハンがすぐに視線を向けた。


「……これは――」


月明かりの下、沖合に浮かび上がる黒い影が見えた。それは巨大な波だった。


「第二波だ!」


レズリーが鋭い声で叫び、村の中に緊張が走る。護衛の騎士たちはすぐに動き、村人たちを避難させようとした。


「全員、急げ! 一刻も早く高台へ!」


ユーハンの指示に、騎士たちは村人を誘導し始めた。しかし、その波はあまりにも巨大で、速度が尋常ではなかった。波の影は月明かりを遮り、大地を震わせながら迫りくる。


***


「くっ……」


高台から漁村を見下ろすユーハンは言葉にならない言葉を発していた。川から海に戻る第一波と第二波が衝突し、轟音は耳をつんざき、波の前面は泡立ち濁流となっている。


濁流は村を飲み込み、家々を一瞬で押し流していく。海と川が衝突し、押し寄せた水の壁が瓦礫と人々を飲み込んだ。


ヴィルホは波の勢いに圧倒され、一歩、また一歩と後退する。その異常な光景に動揺を隠しきれない。


濁流の中から人々の叫び声が上がる。しかし、それもすぐに波音に掻き消されていった。


***


波が村を飲み込み、濁流が引いた後には、瓦礫の山と静寂だけが残された。村が完全に壊滅した光景を前に、ヴィルホは青ざめた顔で立ち尽くしていた。その瞳には動揺が浮かんでいるが、すぐにそれを怒りに変えた。


「お前の準備が不十分だったからだ!こんなのは私が望んた力ではない!」


振り返ると同時にレズリーを鋭く睨みつける。その声には苛立ちがはっきりと滲んでいた。


レズリーは冷静に頭を下げた。


「ヴィルホ様……自然の脅威は計画を超えました」

「黙れ!」


ヴィルホの声が夜空に響く。彼は拳を握りしめながら瓦礫と化した村を見つめ続けていた。


ユーハンはその様子を黙って見守っていたが、ついに言葉を絞り出した。


「ヴィルホ様……ここからは、撤退を最優先すべきです。これ以上、部下たちを危険に晒すわけにはいきません」


ヴィルホはその言葉に何も答えず、ただ前方を見据えていた。その顔には計り知れない葛藤が浮かんでいた。


***


天幕に戻る道中、ヴィルホは誰にも聞こえないほどの低い声で呟いた。


「……計画をやり直すしかない……」


彼のその言葉に、ユーハンは顔を曇らせながら歩を止めかけたが、結局何も言わずその後を追った。


波音だけが暗闇の中で響き続け、破壊された村の光景が彼らの背後に広がっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ