招集命令
昼下がりの陽射しが、執務室の窓から差し込み、部屋を柔らかな光で包んでいた。石造りの壁には古びた盾や剣が掛けられ、騎士団詰所特有の質素ながらも厳粛な雰囲気を漂わせている。
執務室の中央には、木製の机が一つ置かれていた。机には山のように積まれた書類と、インク壺、羽根ペンが整然と並んでいる。その中には村人からの陳述書や修理の申請書、そして領主からの指示書まで、様々な種類の書類が混在していた。
椅子に腰を下ろしていたユーハンは、一枚の陳述書に目を落としていた。その額には深い皺が刻まれ、手にした書類を厳しい目で追っている。
「……羊を盗まれた?あの辺りは見回りを増やしたはずだが……」
呟く声には、軽い苛立ちと、自分の統率力への責任感が滲んでいた。彼は羽根ペンを手に取り、書類に署名を記しながら、机の端にそっと積み上げた。
窓の外では、若い騎士たちが剣術の稽古をしている。力強い掛け声が響き、木剣がぶつかる音が風に乗って執務室の中まで届いてきた。
「外に出て体を動かせたらな……」
ユーハンはため息をつき、窓越しにその様子を眺めた。剣を振り下ろす若い騎士たちの姿を目にしながら、自分が前線に立って戦っていた頃を思い出す。あの頃は、剣を振るうことで仲間を守り、領地を守っていた。
だが、今の彼は団長という立場で、机に向かい続ける日々だ。指揮を執る責任を理解しているものの、心のどこかで自分の居場所が戦場であるべきだと感じていた。
扉が軽くノックされる音が響いた。
「入れ」
ユーハンが声をかけると、扉が静かに開き、スールとラヴァンが姿を現した。彼らは騎士団の若手であり、かつてユーハンが現場で指導していたアイモの息子たちだった。
「団長、命令書を届けに参りました」
スールが一歩前に出て、手にした封書を差し出す。その動作には少しの緊張が感じられたが、若者らしいきびきびとした動きだった。
ユーハンは封書を受け取り、静かに封を切った。紙の感触を確かめながら広げると、記された内容を読み進めた。
「ヴィルホ様の命令だと……何か事情を知っているか?」
彼の声は低く、慎重さが込められていた。
「私たちには詳細は知らされていません。ただ、緊急性のある召集とのことです」
ラヴァンがきびきびと答える。その声には、若手らしい真面目さと緊張感が滲んでいた。
スールは少し目を伏せるようにしながら、付け加える。
「ただ、少し前から騎士団内で物資が集められているようです。何か大きなことが起こるのかもしれません」
ユーハンは眉をひそめた。ヴィルホが召集をかける理由は明記されていないが、その準備の規模から察するに、ただの演習や警備では済まされないことは明白だった。
彼は短く息を吐き、静かに命じた。
「わかった。部下たちに準備を命じてくれ」
「はい、団長!」
スールとラヴァンが声を揃えて敬礼すると、すぐに扉の向こうへ姿を消した。
静寂が戻った執務室で、ユーハンは机に肘をつき、窓の外に目をやった。若い騎士たちの稽古は続いている。彼らの掛け声や、木剣のぶつかる音が心地よいリズムを作り出していた。
だが、ユーハンの心には小さな不安が広がっていた。ヴィルホの召集命令には明確な目的が記されておらず、これまでの彼の行動を思い返すと、何か厄介なことが起こる予感がした。
「ヴィルホ様……今度は何を考えているのか」
呟く声には、警戒心と疑念が滲んでいた。
彼は封書を机に置き、再び書類の山に目を戻したものの、心はどうしてもヴィルホと今回の召集の意図へと思考を巡らせていた。




