9 担任教師の困惑
「・・・なぜ皆さまは学園に来られないのでしょう?」
公爵令嬢が首を傾げながら不思議そうに言っているのを見て担任教師は内心で思った
本気で言っているように見えるのだがそれを信じていいものだろうか?
ちょっと前のことだった
第一王子が卒業式の送辞で婚約を破棄すると宣言した
公爵令嬢からの報復は熾烈を極めた
騎士団の人間だってここまではしないだろう
いや隣国との戦争にだってここまではしないだろう
そう思わせる程の報復だった
まさか公爵令嬢がする訳ないと思うほどの悲惨な結末となっていた
もっともその報復は一部の人間に限定されており、まだまだ報復対象は残っていると思われている
なにせ当の公爵令嬢が
「残りはまた後日」
と言っていたのだ
心当たりがある生徒は一杯いた
もちろん教師も同様である
卒業式以降は公爵令嬢は元の姿を取り戻していたが生徒達は誰も信じていなかった
なにせ本人が
「その都度文句を言っていたら謝って終わりだろ?
それならやられ損じゃないか
だったら貯めて貯めて貯めまくって倍返しだ!」
などと言うのをリアルタイムで聞いたのだ
それも実際にやり返すのを見せつける実演付きで、だ
以前通り大人しくなった公爵令嬢の姿に惑わされる生徒や教師はいなかった
さらに
「何もしないよな?」
との教師からの問いかけに対して
「何をおっしゃっているのか判りませんわ」
とさらに首をかしげる始末
絶対に判ってしらばっくれているとしか見えなかった
「いや訳の分からないことを言って済まなかった」
そう言って話を切り上げるしかなかった
「・・・という訳でした」
公爵令嬢との会話を伝えると学園長はがっくり肩を落とした
「まだ許していないのだろうか・・・」
項垂れながらも聞きてきたが担任教師としてはどう答えたらいいのかわからないので失礼なことを自覚しながらも肩を竦めるしかなかった
大体、公爵令嬢の動向など一介の教師の手には余るものである
それも男爵家の3男という親が死んで代替わりしたら平民になる立場なのだ
雲の上の人間達の思惑や今後の混乱なぞ想像もしなくない
いや関わりなぞ持ちたくない
爵位を持っている学園長に責任を押し付けるに限る
つまりは自己保身
そう言う事である
・・・皆、自分の身がかわいいのである
とはいえじっと学園長に見つめられ続け返事を強要されるとなると黙っている訳にもいかない
「おそらく許していないかと・・・」
恐る恐る学園長の顔を伺いながら言う
しかし学園長はさらにじっとこちらを見つめていた
沈黙で返事をしたくないと言外に主張したのだが無駄だった
学園長からの無言のプレッシャーを受けて仕方なく自分の考えを言った
いや言わされた
「公爵令嬢は当日
『一つ一つに文句を言っていたら細かいことをネチネチと言うだとか、謝って終わりにされるだろう?
それじゃこっちがやられ損だろ?
だから山となるまで溜まるのをまっていたんだ
大人しい奴を怒らせると怖いんだぞ?』
と言っていました。
おそらく今は復讐する最高の機会を待っていることでしょう
ですから生徒を登校させるのは猛獣の前に哀れな羊を置くようなものです
もしもの時は学園長が責任を取らさせることでしょう」
正直に答えたら学園長の顔は苦虫を100匹くらい嚙み潰したような顔になった
しっかり責任が学園長にありますよというのが伝わったようだ
まああの日の公爵令嬢の話は判りやすいというか、誤解のしようがないくらいシンプルだった
「おまえらのやったことまるっと全部丸わかりだ!
だからしっかり報復してやろう!
アッハッハッハ」
公爵令嬢が言っていた
そこまで判りやすく言われたのだ
誤解する人間はいないだろう
そう思う
・・・報復がないと誤解したい人間は多いだろうと思うがな
担任教師は公爵令嬢からの報復からは外れているかもしれないと思いつつ、一方、生徒の管理不十分として報復されるかもしれないとも思っています
公平を心掛ける真面目な人間でした
ですから報復を恐れながらも学園に来て教師を続けています
今後担任教師は報復を受けるのか?ですか?
御想像におまかせします