6 公爵様の腹心の話
「公爵令嬢を正室とし、男爵令嬢を側室にすればよかろう」
国王陛下の返事を聞いた我が主、公爵様は後ろ姿であっても怒っているのが判った
あ、ちなみにオレは公爵様の手下その1だ
爵位は伯爵だし、跡取りだけど今のお仕事はただの公爵様の腰巾着
一大事には肉壁となり、またある時は使いっ走りもする何でも屋だと思ってくれ
「断る!」
公爵様が怒りを抑えずに怒鳴るように即座に言い返した
普段の温厚な公爵様はどこに行ったのだ、と言いたい
優しいを通り越して舐められているのがデフォルトな公爵様が武闘派に変わってしまっていた
まあお嬢様に(精神的な)ケツを蹴り飛ばされて改心したのだから当然だ
・・・実際にその現場を目の前で見ていたオレは『お嬢様、男前すぎる』と感心したな
「無礼だろう!」
と宰相が即座に言い返してきた
普段格下扱いしている公爵様が反撃してきたことに腹を立てたようだ
侯爵分際で不敬だと思う
普段は波風立てないようにしてきた公爵様を大人し過ぎると苦々しく思ってきた公爵様の手下としてはここらで一発今までの分を含めて(精神的に)殴ってくださいと言いたい
しかしそれをガン無視して国王陛下を睨む公爵様
位下の宰相は目じゃないってことだな
無視された宰相様が睨んでくるのがいい気味だと思った
そして同じように国王陛下の方は従弟で同じ血が流れているせいか容赦がなかった
というか国王陛下の方が年上であるし、幼い時に遊んでもらったこともあって臣下として仕えて来たんだよな
ところがそれをいいことに、~慣れたともいう~ 段々横柄になった国王陛下
第一王子が勝手に婚約破棄したというのに一言
「すまないな」
と謝ったか謝っていないのか判らないセリフで ~もちろん口調や態度も謝っているとは見えない~
終わらせようとした
それに怒った公爵様が国王陛下からの提案というか命令を断ったという訳だ
・・・普段温厚な公爵様が大激怒しているのには本当にびっくりだよ
「無礼だろう!、王族に嫁ぐというのは大変名誉なことだぞ!」
無視されたことに怒ったのかさらに恩着せがましく言ってくる宰相
・・・しかし侯爵のくせに公爵である我が主によく立てつけるな、と思う
「ならば宰相閣下の娘を正室にすればよかろう!」
そうすればうちの娘を王家にやる必要もなくなるしな!
と言われた宰相様は目に見えて狼狽えだした
バカな第一王子に嫁がせるなんて真っ平ごめんだというのはどこの親でも同じらしい
ふっ、ざまあみろ!だな
「第一王子と婚約するくらいなら格下でも誠実な婚約者を新しく見つけた方が建設的だ」
と国王陛下に聞こえるように独り言を言う公爵様
・・・一体いつもの控え目な公爵様はどこにいったんだと言いたい
「そんなことできる訳がないだろう!うちの娘は婚約者がいる!」
再起動した宰相様が怒鳴って来た
バカ王子を押し付けられるのは本当に嫌らしい
宰相様は焦っていたのには嗤える
後で同僚たちに教えてやろう
さぞ酒が旨い事だろう
あんたが侯爵家の娘に押し付けようとしたくせに宰相だと嫌だとかふざけているよな
本当にざまあみろ!、だよな
「それでは正室は宰相の娘ということで!」
無理矢理話を終わらせた公爵様は踵を返すと謁見の間から出て行こうとした
「だれか公爵を止めろ!」
ここにきてようやく国王陛下が動き出した
その声で公爵様の行く手を阻む衛兵達
「貴様、名前はなんという?」
公爵様はわざわざ立ち止まって手前の衛兵に問いかけた
衛兵は思いがけない突然の問いかけに答えれなかった
「いやね、娘からもしも我が公爵家の行く手を阻む者が居たら名を聞いておけとわれているんだよ
あとで生まれてきたことを後悔させてやるんだそうだ」
いかにも娘を自慢する親ばかのように言っているが内容が酷かった
台詞と態度が全然会っていない
「教えてくれないのなら近衛兵全員と娘に伝えておこ「ジョン=スミスです!」」
いきなり衛兵の中から裏切り者が出た
そりゃそうだろう
嗤って目を刳り貫く令嬢の相手なんてしていられない
自分どころか妻や娘まで笑って顔を焼かれるようなことがあったらたまったものではない
そこまでの給料は貰っていないのだから
国王陛下にこき使われる衛兵に同情した
まあだからといって手かげんする気はさらさらない
お嬢様が言っていたからな
「やられたらやり返す、倍返しだ!」
実にその通りだと思う