8.距離五〇〇メートル-もう、勘弁して-
全47話予定です
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話は少しだけ戻って、シュエメイは敵の襲来と共にマシンガンと盾を構えて迎撃に移ろうとしていた。敵は中央突破を図るつもりらしい。つまり力比べ、という事になる。
「ライラ准尉、行きますわよ」
そう言いながら、
――ついに来てしまったのね。出来ればこんな日が来なければよかったのだけど、これも命令、自分は何としても生き残らなければならない。
そう心の中で思っていた。
敵はどうやら車輪のようなものを付けているらしく、一気に間合いが詰まる。
距離五〇〇メートル、それが発砲の合図だ。帝国のマシンガンの威力を最大限に生かそうとすればそこまで引き付ける必要がある。どうやら敵もそれくらいの射程なのか、発砲はして来ない。
「やっぱり五〇〇メートルという距離はスタンダードなのかもしれないデスね」
ライラがそう嬉々として言う。
――貴方を裏切るような事をしなければならないんです。
シュエメイは心の中でそう思いながら[そうですね]と言い、若干足取りを抑えた。必然的にライラが前に出る形になる。
「ん?」
ライラは一言そう呟いたがそれ以上は何も言わずに前衛に出た。ある程度のところで盾を構えて揃ったかのように一斉射撃を加える。敵もむ隊列を一列にして撃ってきている。
――敵も同じ事を考えている?
シュエメイはそう考えながらもライラの遮蔽に入るように機体を持っていく。双方の撃ち合いが始まった。初めのうちは盾が効いていた。しかし、いくら盾とはいえ十発も喰らえば破壊されてしまう。レイドライバーはもちろんその機動性もさることながら、戦車砲に匹敵する火力を持っているのだ。それは同盟連合も帝国も同じだろう。
一発、二発と盾のなくなったライラの機体に当っていく。リアクティブアーマーの炸裂がそこらかしこで起きる。だが、それは同時に[これ以上、弾丸を防ぐ手立てが無くなる]というのを意味している。リアクティブアーマーが抜かれれば、あとあるのはレイドライバーの装甲だけなのだ。
――バカげてる。
そうシュエメイに思わせる程、この戦場は理知的でない。それはそうだ、遮蔽も無いところで正面からの撃ち合いである。こんなのは本来ならするべきことではない。だが、そうせざるお得なかった事情というものがある。
ここ、旧アルゼンチンは同盟連合の領土だ。そこに侵攻軍として帝国軍がやって来た。その中で占領という形をとるのだが、そんなところで市街地に陣を置けばどうなるか。当然、感情的には同盟連合は[卑劣な侵略者から守ってくれる友軍]に見えるだろう。だが、市街地戦を避ければ? もし帝国が勝ったとしても統治の仕方によれば[帝国は人道的にも配慮できる軍隊で安心できる]となるかもしれない。
シュエメイたちには[南米を、とりあえず最低でも旧アルゼンチンは占領してこい]という命令が下っている。そこに市街地戦というのはありえなかったのである。山岳地帯という手もありはしたが、そこはまだ経験の浅いシュエメイたちだ、市街地郊外を選んだのは立地的には正しくないと言えるだろう。
――あぁ、私は一体何をしているのだろう。
目の前で次々に被弾していくライラを見てシュエメイはすまない気持ちと、みじめな気持ちと、少しの恍惚感に襲われていた。味方がやられているのにその状況に酔ってしまっているのだ。それは彼女がまだ戦場を経験していない表れなのか、それとも思考が先行してしまっているのか。
だが、敵の前衛も同様に次々被弾している。そして、互いに動けなくなった時、
――もう、勘弁して。
シュエメイは根を上げてしまったのだ。
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