7.距離五〇〇メートルで撃ってくる-そこで光無線通信が入ったのだ-
全47話予定です
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トリシャたちはこの街に入るメイン道路から侵入した。相手もそれは直ぐにわかったようで装備している盾を前面に出して迎撃態勢に入る。だが、こちらとしても射撃体勢はとるもののまだ撃ったりはしない。それは射程距離の問題、それに付随する破壊力の問題である。あまり遠くからだと、弾はその装甲ではじき返されてしまうか、上手く期待通りの破壊力を出してくれないのだ。
今回トリシャたちは標準的な弾薬を装備してこの戦いに臨んでいる。具体的に言えば徹甲弾と榴弾の間、と言ったところか。
弾丸は主に二種類に分けられる。敵の装甲を貫通する徹甲弾と、爆発して敵にダメージを与える榴弾である。レイドライバーに搭載されている標準的な弾薬はこの、どちらの性質も有している。つまり[ある程度装甲を貫いたところで爆発する]そういう弾薬だ。
もちろん炸薬散弾という、指定した距離か、敵に当たるかのどちらかの条件を満たすと爆発して周囲にさらに小型の爆裂弾をばらまくという装備もあるし、純粋な徹甲弾を使用する場合もある。だが、今回はレイドライバーが相手だ、標準的な弾薬を使うのが適切、と判断したのだろう。
――距離五〇〇メートルで撃ってくる。
それはトリシャたちの装備している弾薬の、貫通力が維持できる最大がおおよそそこだからだ。敵レイドライバーの兵装は不明だ、だが、ヨーロッパ戦線に敵レイドライバーが投入された時も同盟連合はレイドライバーを派兵した。そして南米の旧アルゼンチンが攻撃された現在もこうして二体、派兵している。という点を踏まえれば相手も同様の武装をしている、と考えていいだろう。
「レベッカ、いい? 距離五〇〇で射撃するわよ」
「了解です」
そんなやり取りをしながら、トリシャはレイドライバーの速力を少しだけ落とした。
――御免なさい、これも命令なの。
必然、レベッカが少しだけ先行する形になる。本来であれば[どうしましたか?]と尋ねられる場面であるがレベッカはそのままの速度を維持している。
そうしている間にお互いの間合いに入ったのだろう、撃ち合いが始まる。
距離五〇〇メートルでの撃ち合い、それは回避がとても難しい事も意味している。そして、当たり方によっては大破する可能性も。
もちろん双方リアクティブアーマーを着ている。だから一発二発でどうの、という訳ではないが、それでも十数発の弾丸を受ければ話は別である。
トリシャのとった回避行動により、レベッカの機体が全面的に弾を喰らう結果になった。盾装備はしているものの、一発二発とリアクティブアーマーに当る。それは相手も同じようで、二体いる敵は片方を遮蔽に取るように背後に回り込む。やはり一発二発とこちらの弾丸が当たっていく。
――あぁ、私は一体何をしているのだろう。
こんな時に言いようのない感覚が襲ってくる。それは心の痛みと同時に、心理的な快感でもあった。そんなトリシャは気が付けば上気していた。
双方のレイドライバーに搭載されているコンピューター、更に言えば射撃管制システムというのはよく出来ており、移動中の振動が伝わる最中の射撃という、動作にはとても良くないコンディションの中、正確に相手を打ち抜くことが出来る。そしてそれは撃ち合いになった双方の盾を壊して直接レイドライバー本体に弾丸が当たっていく。
一発、二発。
盾はやがて意味をなさなくなる。そして盾のないレイドライバーにマシンガンの弾薬はとてもきついものだ。
もちろん回避運動をとれば避けられるのだろうし、それだれの性能を有している。だが、双方ともに回避運動はとらなかった。
そうこうしているうちに、お互いの先頭にいるレイドライバーが行動不能になった時、互いの距離は一〇〇メートルを切るまで接近していた。
相手に銃口を向けながらトリシャは次弾を撃とうとしていた。
――私が何とかしないと。
トリシャはそれだけを考えていたが、そこで光無線通信が入ったのだ。
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