6.正直、シュエメイは必死だった-准尉、それが八名が貰った階級である-
全47話予定です
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だが、シュエメイが軍人の道に進むのは少しばかり抵抗があった。
軍人、それは命令という免罪符はあるものの、人を殺すという行為をする集団である。漠然とそんな事を考えていた頃、家の近くに子供を軍人に推薦する、という話が上がった。当然、倍率は高いものになった。皆考える事は同じというところだろう。シュエメイは[この機会を逃したら軍隊も無理なんじゃあ]という危機意識があったのも事実だ。当然母親は反対した、だが、子供の頃から入ればいいお金になる、いい地位にも付けるという事実がシュエメイの背中を最終的に押したのだ。その当時、彼女は十四歳だった。
シュエメイが入れられた施設、それは一般軍事教練ではない、レイドライバーのパイロットを育成する機関だった。そこで彼女は、周りを見て自分と同い年くらいの娘しかいない事に気が付く。彼女が[これはどうしてなのか]と疑問を感じている間もなく教練は始まった。
教練はまず、一般的な教練から始まった。
まず、第一、第二言語は必須とされた。第一言語の方は元々話している言葉だからいいとして、第二言語を習得するところからスタートした。だが流石は成長途中、それに頭の回転も良いと来ればそんなに難しいものではなかった。
だが、もちろん教練で教えられるのは言語だけではない。敵の使う言語、数学、地質学、物理学、救護学、医学、体育、護身術、はては上の者に対する口の利き方や、全体行動の際の規律、銃や他の火器の扱い方、あげく、拷問の耐え方まで叩き込まれた。まさしく[叩き込まれた]のだ。それらに付いて来られないと平気でビンタやムチが飛んで来るし、酷ければその日の食事は絶望的であった。
入って二年を少し過ぎた頃までに、四十名ほどいた仲間は十二名までに減っていた。そんなある日、教官から[ある兵器のパイロットを養成している]と聞かされた。そして[ここから先はふるい落とされれば命は無い]とまで言われたのだ。
当然、それだけなら[話が違う、降りさせてもらう]となる人間が出てもおかしくないのだが、元々シュエメイ以外はほぼ身売りされたような娘たちだ、それに[パイロットとして正式採用されれば相当額の給金が毎月支給される]と言われ、その金額に皆が驚いた。一般の兵士二人分、いやヘタをしたら三人分である。
それがあってか、それとも元々帰って来るなと言われていのか、この二年半の境目で降りる人間は一人もいなかった。
そこから一年半、気が付けば十二名いた娘は八名まで減っていた。ある時[ふるい落とされた人間はどうなったのか]と尋ねた娘がいた。だが、その答えは、言葉ではなく体罰として現れた。そう、問答無用で殴られたのである。そして[二度と聞くな、それ以上聞けは自分の命は無い]と言われたのをシュエメイは目撃している。
[自分はあんな風にはならないんだ、振り落とされはしないんだ]
正直、シュエメイは必死だった。ある兵器というのは、どうも四肢のあるロボットのようなものだというのは教練過程で必然的に分かって来た。初めは手足を動かすのに四苦八苦していたが、流石は子供、直ぐに覚えて行ったのだ。
そしてこの教練施設に入って三年半が経ったある日、レイドライバーを本格運用する為の機械が体に埋め込まれた。説明によると[自分の躰と機械の身体の切り替え装置だ]という。そこからの半年間はその機械を使用して教練を積んだのだ。
この機械はよく出来ている。
何といってもロボット側に接続している時は、自身の躰は指一本動かないのだから。そしてある程度の制限はあるものの、ロボットの感覚が伝わって来るのである。シミュレーターで行うとはいえ、実弾演習で被弾すればとても痛かったし、走れば風を感じることも出来た。
どうもこの肌で感じる[感覚]というのはある程度の取捨選択がなされているようで、皮膚がかゆいと感じる事は無かったのはありがたい事だった。
四年。
最終的に八名のパイロットが出来上がった。そしてそのパイロットたちには[機体が出来上がって順番に実戦配備される]旨の説明があった。卒業と同時に階級はもらえた。准尉、それがシュエメイを含めて八名が貰った階級である。
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