5.あそこの高台はやはり通らないでしょうかね?-きみには生き残ってもらいたい-
全47話予定です
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「あそこの高台はやはり通らないでしょうかね?」
シュエメイはライラにそう尋ねた。
この街に入るのに一か所だけある、高台からのルートにはあらかじめ感応爆薬を隠して仕掛けてある。
「まあ、明らかに一か所だけ有利な場所にあるし、敵だってわかっているハズ。おそらく通らないでしょうな、と思うのデス」
シュエメイの心は、晴れないでいた。それはそうだ、いくら市街地は避けるようにと言ってもこんな遮蔽のないところで撃ち合いになればどうなるか。
[きみには生き残ってもらいたい]
あの時、クラウディアに言われた言葉が頭を何度もよぎる。彼女は[味方を盾にしていいからきみは生き残るんだ]とシュエメイに言った。第一陣はヨーロッパで、第二陣はここ南米で展開するのだ、と。そして、南米はヨーロッパと違い、帝国はこの地を落とすつもりでいる、とも。その為に、最低でもレイドライバー一体は無事でなければならないのだ、と。
では何故生き残るのが自分なのか。
それは自分が大陸出身だ、という、ただそれだけの理由なのだ。相方は難民、それも大陸出身ではない。もちろんそれで差別されるような事は教練時代にもなかった。皆が一様に厳しい教練を受けて過ごしてきた。更に言えばパイロット同士、仲間意識すらある。そんな[仲間]を盾にしろ、そういう命令なのだ。
――私にそんなことが出来るのだろうか。
いつも外では笑みを絶やさないシュエメイも、コックピットの中では難しい顔になる。
果たして敵との戦闘中に相方を盾になどできるのか。いや、してこいという命令だから守らねばならない、しかしながら頭で分かっているつもりでも心の中で[そんな卑怯な事をしていいのか、そんな非人道的な事をしていいのか]と囁く自分がいるのだ。
本当に大陸出身だから、という理由で自分が生き延びろと言われたのか、シュエメイはすこし疑問に感じていた。
――――――――
シュエメイの過去というものは少しだけ複雑だ。
彼女には両親がいる。母親はまだ健在で大陸の国に住んでいる。父親は、というと海外暮らしをしている、と母親に聞かされている。父親とはシュエメイが幼少期の頃に何度か会った事があるが、その人物像はあまりはっきりとは覚えていない。
そんな中でただ一つだけ覚えているのが、
[笑みは、微笑みは笑っているのとは違う、あくまで相手に情報を読み取られないようにする[盾]なんだよ。これからいろんなことがあると思う。どんな困難があったとしても、微笑みを絶やさずに生きるんだ。それを貫くんだよ]
という父の言葉だ。まだ幼いシュエメイが[どうして?]と聞いたその言葉に父は、
[私の先生がそう教えてくれたんだ。私はその言葉にハッとさせられた。それ以来、その先生の教えを守って生きている。その先生は私の恩人なんだよ]
と教えてくれた。
当時、父は日本の大学に留学していたらしい。世界は徐々にきな臭くなっては来ていたものの、その当時はまだ内線や戦争なぞは影も形も無かった時代だ、もちろん日本にもたくさんの外国人留学生がいた。その中にシュエメイの父がいたのだ。
母とは大陸に帰って来てから知り合ったらしい。詳しく聞こうとすると恥ずかしがって教えてくれないのだ。だが[貴方のお父さんは立派な人よ。留学先でいろんなことを学んで、離れてお仕事をしているの。今は会えないけど、またきっと帰って来る]そういつも聞かされていた。そんな父は研究職をしている、とだけ聞かされている。
なので、ほぼ女手一つで育ててくれたようなものなのだ。そこで[父親なんていらない]とならなかったのは、事あるごとに母がシュエメイに言って聞かせていたせいだろう。[貴方のお父さんは立派な人なのだ]と。それが証拠に、女性だけのこの家族でもマンション暮らしをしていた。それが出来るだけの財力があったし、そしてその財源は父からの仕送りによるものなのだ。だからだろう、シュエメイも父に付いてどうこうとは思っていなかったし、逆に尊敬の対象になっていた。
ではそんなシュエメイが軍の道を選んだのは何故か。それは手っ取り早くお金が稼げるからである。彼女は頭の回転がいい方だ、もし父親からの仕送りが止まったら自分たちの生活はどうなるか、それを憂いていたのである。
世界大戦ともいえるこの戦争はまだ続いている。父は海外で研究職をしているとの事だが、その海外とやらが安全なものなのか分からない。
父は自分の傍にいないから何とも言えないが、せめて傍にいる母親だけは食べるに困らなくさせてあげたい。その為にこのご時世、手っ取り早く良い給金がもらえる職業と言えば、軍人なのだ。
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