46.カズが言うその策とは-彼女たちは既に考える自由すらないのだ-
全47話です
明日(12/17)の第47話でこの巻は完結になります。読んでくださって本当にありがとうございます!
続いて、同じく明日(12/17)に次作である「レイドライバー 15 -無人機と旧イエメン戦-」を寄稿したいと思います
次話の前書きと後書きにリンクを貼っておきます、もし引き続き読んでくださればとても嬉しいです!
「ご心配はごもっともです。私も無策でその二個のサブプロセッサーを供出しようなどと考えてはいません。もちろん策があっての事です」
カズが言うその策とは。
二個のサブプロセッサーはそれぞれ意識がちゃんとあり、インターフェースを介せば他のサブプロセッサー同様に会話が出来る。まぁ、元は人間なのだから当たり前なのだが。
だが人間である事を止めさせられた存在でもある。躰を取り上げられ、脳だにされて箱に押し込められ、生殺与奪権を握られたまま生活をする。辛く苦しい実験や、経験したくもない経験をさせられる。それだけの事をされて、レイドライバーという身体が与えられればどうなるか。しかも単独行動できる、という条件でだ。
当然、今までの恨みつらみというものもあるだろう。口にはしないものの、実際ログが残っている。
そう、彼女たちは既に考える自由すらないのだ。考えればログが残り、思考にまでコンピューターが介入できるのだから。
先述した通り、サブプロセッサーには生体コンピューターが搭載されている。そしてそのコンピューターは逆に脳を支配することも出来る、という話である。
サブプロセッサーと呼ばれる脳みそたちにはもれなく、生体コンピューターが取り付けられており、それは大脳皮質、つまりは思考や記憶の中枢の前頭葉、体を動かすための運動野や発語の中枢であるブローカ野、脳内の保存されている情報を集めて物事の計画や意思決定を行なう前頭連合野、更にはその奥にある大脳辺縁系、ここには[記憶の司令塔]とも呼ばれる海馬や側坐核、扁桃体等に、神経系と同化する[配線]をされている。
そうする事で生体コンピューターを通じて五感を感じたり、レイドライバーを実際に動かしたり、思考する事でコンピューターを稼働させて必要な情報を集めたりしている。
さらには快感や恐怖感、不安、悲しみ、喜びといった情動的なものもこれらすべては本人の脳が実際に感じる事である。
通常時はサブプロセッサーの本体である元の脳が、生体コンピューターを操って色々な指示や検索などに使用している。だが、この動作には逆も出来るという話なのだ。
つまりは生体コンピューターが、元の脳に[指示を出して]思考を制御、誘導といった行動をとれるのだ。
実際、これがあるお陰で、現在のサブプロセッサーたちが離反する可能性はほぼゼロといっていいレベルに達しているのである。思考すればログが残り、その思考すらもコンピューターによって制御、改ざん、修正される。
言ってみればサブプロセッサーに取り付けられているコンピューターは枷である。それもそんじょそこらの枷とは違う、その威力は思考の自由すらも許さないほどなのである。まさに心の手の内すべてを[丸裸]にされた状態で[自由自在に操られる]のだから。
それは詰まるところ、こちらがあらかじめプログラミングした思考を守らせる事も自在、という訳だ。
どんなに研究所の人間たちを憎んでいようが、思考をプログラム出来る時点でこちらの思うがままなのである。
――正直、酷い事をしているという自覚はあるよ。
カズはそう思うが、これは軍隊という組織の中に組み込むには必要な処置なのである。そしてそれが出来るから[無人機]構想が前進するのである。
「という訳です。ご理解いただけましたか?」
カズがそう尋ねると、
「研究はそこまで進んでいるのだな」
というその声は感嘆の感を示していた。
「ええそうです。ですので極論を言えば、実際に敵対心をむき出しにしている相手でも意のままに操るのも容易、という訳です」
――そう、それほどにこのシステムはとても強力な枷、まさに脳に付ける[首輪]になるのだから。
実は、この構想はサブプロセッサーの生産にも大きく影響している。何故なら対象が女性、子宮のシグナルが良好という条件だけで、大人の[調律]していない人間でもいい、となるからである。そうすればカズや政府上層部がいう[無人機]構想がグッと現実味を帯びで来るのだ。
もっと突き詰めれば仮に本当に[無人機]を大量生産するのであれば、子宮シグナルの強さもそんなに問題ではなくなる。そう、単独での運用が可能になるから、パイロットとのリンクという縛りがなくなるからだ。
もちろん[独特の間]を無くすために子宮リンクというシステムを用いている。これだけ記述が発展していてもまだ自己の遺伝子だけでの[子供]は作れないでいるが、それももし可能になったなら?
研究は、そこまで進んでいるのである。
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