41.見殺しにしていればよかったの?-そんな気持ちが現れては消え、消えては現れる-
全47話です
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トリシャたち派遣部隊は一路エルミダスに向かって帰っている最中だ。そんな中でトリシャは一人甲板で海風を浴びていた。
今回、自分のやった事は本当にカズの為になったのか、と。いつまで経ってもそんな思考が頭から消えてくれない。
確かに、人道的にはこれが最適解、とまで言わないものの、アフターフォローとしては上出来だと思う。
だが、カズは[僚機を盾にしろ]と命じたのである。その点については上官と下士官、主人と従者の関係にある現在、本来なら守らねばならない話なのだし、あの時は確かにトリシャは[分かりました、ご主人様]と言った。
人道的な問題と、命令違反の問題と。この二つの間でトリシャは揺れていた。カズと交わしたあの無線では、カズは了承もしていなかった。現に[クリスと一緒によーく[話し合って]もらうから]と付け加えている。それにカズはご苦労さまとは言ったものの、良くやったとはついぞ言わなかったのだ。
――あの娘を見殺しにしていればよかったの?
そんな気持ちが現れては消え、消えては現れる。
こんな考えは戦闘前にずいぶんと思い悩んだものだ。その時は結局のところ答えが出なかった。いや、出せなかったのである。
今までのトリシャならどうか。多分、罪悪感にかられつつも命令を実行していただろう。そして僚機のパイロットが死亡したとしても[これは命令なんだから仕方がなかった]と思うだろうし、帰って来てから同僚たちに声掛けされても何も感じなかったはずである。
では今は?
これほどに弱くなったと感じる自分がいる。そしてその原因はおそらくカズである。トリシャは今まで自分を支えていたある種のプライドのようなものも、自分というものもすべてあの日カズに預けてしまったのだ。その判断は間違っていたか、と問われれば今になっては分からない、というのが実情である。
それでもカズの事が好きになり、自分の一番を彼に預けたその時からトリシャはこんなにも悩み、もがくようになった。そんな彼女に今更[元通りの関係になれ]と言われてももう無理な話である。それほどにカズという存在にのめり込んでしまっているのだ。
人はそれを依存、と呼ぶかもしれない。実際、当の本人であるトリシャもそう思っているところではある。
それでもレベッカを助けたのは、やはりかすかに残っている道徳心なのかも知れない。彼女の過去も聞いていたから、少しは彼女の事が気になっていたのかも知れない。
かも知れない、それほど今のトリシャは自分を見失っているのである。そして見失った自分が主人に、他人に、罵られる事を渇望しているのだ。
――もっと私を罵って。愚かだと、自分では何も出来ないと罵って……。
そう考える時、決まって身震いするほどの快楽を得るのである。それは一瞬の事だがそれでも得るものがあるのだ。
昔にいた自分というものが、今の[自分]に置き換わってからずっとそれは変わらない。人はそれをマゾヒズムと呼ぶかも知れない。今のトリシャはそれすら受け入れ[何とでも罵ってあざ笑って]と笑顔で泣きながら上気できるのである。
――でも、こんな私にも[好きです]と言ってくれる人がいる。それはもしかしたら好きではなく愛してるなのかも知れない。そんな愛を、私は享受していいのだろうか? 確かにレベッカは好きと言ってくれた。こんな私がそれを受け入れていいのか。
トリシャはそう考える。自分にその資格があるのか、と。例えその資格がある、と言われてもカズが[ダメ]と一言言えばおしまいである。そしてカズの従者である今のトリシャには、その愛を選ぶ権利はないのだ。
だがもしもカズが[いいよ]と言ったら?
トリシャはレベッカの彼氏彼女になるのか、と問われれば現実的に難しい問題ではある。前述の通り、パイロットは恋愛禁止なのだから。その身も心もすべてはパイロットになった時点で政府所有、これは変わらない事実なのだ。
でも、もしかしたら。
「今日は[でも][かも知れない]ばっかりね」
そう独り言を言うトリシャの心は晴れないのである。
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