37.ここでの戦闘は最低でも一年は無いって話なの?-あ、忘れてないよね?-
全47話予定です
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リオ・ガジェコスタ海空軍基地にいた同盟連合の部隊には[エルミダス基地に撤退せよ]との司令が出た。これにはレイドライバーも含まれる、と。
先ほど行われた帝国との話し合いの内容も伝えられた。
「じゃあ、ここでの戦闘は最低でも一年は無いって話なの?」
――じゃあ、今までの戦闘は一体……。
トリシャが驚くのも無理はない。レイドライバーが二体現れた時点で、帝国はてっきり攻め込んでくるものだと思っていたからだ。それ程こちらの損耗は大きかった。三五FDIは一機撃墜、カレルヴォが乗る機体も胴体着陸をしたので使えない。敵はM三一DIが一機、ほぼ健在と思われる状況だ。そして艦隊、それこそ空母はお互いに飛行甲板に損傷を受けこそしたものの、ここからブエタアレスまでなら戦闘機の航続距離としては屁でもない。それこそドッグファイトをしたとしても余裕があるだろう。
対して、こちらはイージス艦を失った。これは非常に大きな出来事だ。何故なら防空含めてイージスシステムというのはそれだけ現在でも要になっている技術だからだ。
その根幹部がいなくなった。これは、特に防空面で非常に不利になる。あとはミサイル艦が[独自に]防衛しなければならないからだ。それにしたって、基本はイージスシステムの上に成り立っているものなのだから善戦はあまり期待できない。
そしてレイドライバーである。倒したはずの敵がまた一体増えたのだ。
そのタイミングでの停戦協定、これには同盟連合も飲まざるを得ないというところだ。実際に損耗の大きな部隊をそのままにしておくわけにもいかない。
それこそ大昔なら国によっては[突撃ぃ]と全軍散るまで戦う、等というのも考えられた。だが、今はそんな時代ではない。第一、武器の価格だってバカには出来ない。それに戦闘を経験した人間、これが一番大きいのだ。新兵五人よりベテラン一人いてくれた方がどれだけ実戦的か。そういう意味では今回戦った人間たちは日本奪還作戦とこの南米作戦、両方の作戦を経験した[ベテラン]と言ってもいい。その人員を無駄死にさせる訳にもいくまい。
「ああ、そうだ。全軍で戻って来て。入れ替わりで空母がそちらに向かってる。ただし、世界一周の旅をしてからそこに到着するから数か月は先の話だ。それでも一年という時間単位ではないよ」
とカズが返す。負傷者もいるこの状況を見れば、
「確かに、一旦そちらに帰ったほうが良さそうね」
とトリシャも納得するというものだ。
「飛行甲板は明日にでも使用可能らしい。直掩の部隊だけそちらに残して、あとはそのままかな。今回はやられたよ、まさかあんな手段でレイドライバーを出現させるなんて。これは改修の項目が増えたな、こりゃまた忙しいぞ」
カズの頭を掻く姿が想像できる。
――でも、これはこれで有難い話だわ。やっと解放される。
その解放は任務の事なのか、それとも、
「あ、忘れてないよね? クリスと一緒によーく[話し合って]もらうから」
そうカズに言われて少し上気する。今回トリシャはよくやったと思われる。だが、カズからは[味方を見捨てない、それはたしかに素晴らしい事だ。美徳といっていい。だけどね、その美徳が時には仇となる場合があるというのも知っておいて欲しいんだ]とも言われた。それは確かにその通りだ、とトリシャも思う。だが、自分でもあれ以上の戦闘に耐えられなかったというのも実際のところはあるのだ。
「まぁ、でも」
カズはそう言うと、
「今回はご苦労様、って帰って来てから言う言葉かな」
そんなカズの言葉に、
「すみませんでした、ご主人様」
トリシャは心からそう思うのと同時に、これからカズにされる事に密かに期待をしていたのである。
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