36.もしかしたらそんなお古で作った機体なのかも-撃破されてもいい部隊編成-
全47話予定です
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「確かにこのペースでの[揺さぶり]は少し早いですね。敵もレイドライバーのアップグレードはしているはず。となればお古の部品が出る。もしかしたらヨーロッパ、いや南米もそんなお古で作った機体なのかもしれませんね」
――確かにちょっと多いもんなぁ。
カズはそう考えていた。
何故そんな思考になるのか、それは自分が同じ立場ならそうするから、である。
お古とはいえ、元々レイドライバーに装備されていたものなのだから、使えない訳がない。頭数を揃えるという目的にも合致している。とくればカズの言った話の信ぴょう性がぐっと増してくる。
撃破されてもいい部隊編成、そして実際に起こったこちらのレイドライバーの損耗。
「もしかしたら、今回撃ち合いになって遮蔽をとった側の機体がアップグレード済みの機体なのかもしれません。そうすれば一対一で戦った場合でも善戦はするでしょう。それは、こちらが二体とも消失、という結果があったのかも知れませんね」
――それもどうかと思うけど、こればかりはな……。
カズの思うそれ、つまりはお古の機体で戦場に出される側の立場になればやってられないのかも知れない。もちろん誰の機体に何の部品が使われているかなどは知る由もない。だからこそカズのこんな感想が出てくるのである。
「すみません、自分が前線に出られれば……」
とまで出たカズの言葉を、
「きみを責めたりはせんよ。もちろん実際に戦ったパイロットもな。すべてが同盟連合の貴重なリソースだ、特にきみの存在は無くてはならないものなのだから」
と、向こうの人間に言わせるだけの研究も、成果も出してきているのだ。それはカズが所長になってから目ざましいものがある。もちろん千歳が所長の時代からずっと研究の成長は続いていたのだが、カズの行った様々な[改革]によって、それまでの予定調和だった研究が一機に飛躍したのだから。
もちろんその裏にある改革の一つ[人員整理]も一役買っているのは言うまでもない。
だからだろう、政府も軍も、カズを責めるような発言は今までなかった。
「とはいえ、実際に二体のレイドライバーを喪失した。これは非常に重大な懸案だと認識している。我々はね、ヨーロッパがきな臭くなりそうだ、という情報を掴んだ時、こちらとしても新型兵器についての損耗の議論が出たのだよ」
それまではアルカテイル基地に仕掛けたり仕掛けられたりで、戦闘はアルカテイル近郊にのみ収まっていた。それがヨーロッパ、とくれば[何処でも戦場たり得る]というメッセージを発信した国としてはレイドライバーの頭数を、最新鋭機等の戦闘機の頭数を現状維持とするのは好ましくない。
ならば、と再び増産態勢が敷かれたのだそうだ。
「まぁ、これには軍需産業の分散化が大きいのだがね」
そう、同盟連合の上の人間は少し頭を使ったのだ。
――――――――
一般兵器であれば特に秘密も何もない。もちろん三五FDIをはじめとする次世代機のように最先端を行っている技術は、限られた州でしか扱えない。だが、それにしても同盟連合にそれらは一体いくつの州があるのか、という話である。
だったら分散化して、それぞれがそれぞれのエリアに武器の供給、交換、アップグレードを行えばいい。そうすればレイドライバーのラインとは分けて考えられる、そう踏んだのだ。
そうすれば、軍需兵器の主な生産州である米州に集中しているリソースを振り分けられる。各州には雇用だって生まれる。
元々がバラバラだった国が一つの国になった現在、旧各国が行っていた雇用の囲い込みをする必要が薄れてきたのだ。何せ、同一[国内]であればどこに工場を作ろうが税金はかからない。もしもあとあるとすれば、賃金の問題だけなのだ。それにしたって一人当たりの賃金の差は辺境州を除けば大体は同じような数字が出てくる。それでもなお首を縦に振らない人間たちには[技術者として米州から労働者を出してみては?]と提案がなされたのである。これには首を振らなかった当事者も首を縦に振らざるを得なかった。
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「我々はヨーロッパで戦闘が行われているこの間も、レイドライバーの増産に力を入れていたのだよ。もちろん三五FDIや三八FIなどもそれに当たる。近々そちらに増援として送られるだろう」
とまで言ってから、
「研究所の関わっているこの兵器たちの扱いは引き続ききみに任せる。実験がしたいならいつでも言ってくれ、必要な[モノ]は確保して送るつもりだ。ただし、こちらの作戦にも協力をして貰わねばならないがな。原子力潜水艦の改装については早急に選定して行おう。それにはレイドライバーの格納性が必要になる。改修含めて考えてくれたまえ」
そう指示される。
――格納性、か。確かに考えた事もなかったな。
今までそれで困るシチュエーションがなかったのだ。何故なら運ぶ側を改装して来たから。だが、それではこれから先はやって行けない。現に、ICBMという現在ではほぼ[使用出来ない]武装に代わって好きな場所にレイドライバーを出現させられるという手段を、敵は手に入れた。
それはまさしく冷戦時に[原子力潜水艦にICBMを積めばよい]という結論に至ったその過程と同じなのだ。
「了解しました。では増援の件はまた改めて、近いうちに」
と話を終えたのだ。
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