35.情勢、とは?-それ以上のスピードで生産しているのかも知れない-
全47話予定です
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「情勢、とは?」
カズが尋ねると、
「帝国はヨーロッパに二体、南米に二体、計四体のレイドライバーを派兵して来た。これは、アルカテイルという最前線に対して対抗できうるだけの頭数を揃えながら、そのうえで更に揺さぶりをかけてきた、と捉えるのが妥当だろう。以前にきみには三体でしばらく打ち止め、と言ったな? それは各地に展開している軍事兵器の交換、アップグレードが控えている、のは知っているか、まぁ、つまりはその為だと」
確かに日本奪還作戦終了後の向こう側との会話の中でそんな話が出ていた。
簡単に言えば、同盟連合の上のそのまた後ろにいる存在は[武器が売りたい]のだ。そして武器というのはただ売って[へい毎度あり]ではない。メンテナンスをすれば費用が掛かり、弾薬を使えば費用が掛かり、壊れれば修理部品で費用が掛かる。モノによっては先ほどの話ではないが、装備のアップグレードなどという選択肢もある。一度売った武器は、一度配備された武器はそれだけ旨味もあるものなのだ。
日本奪還作戦はそういった現在の、戦時でありながら前線ではただ睨み合うだけで何もしない三国間の予定調和に喝を入れるのが目的だったのだ。
レイドライバーの優位性にも目を向けつつ[戦線はアルカテイルだけではない]という意思表示もする。そして各地に置かれている通常兵器も[新陳代謝]させる。それらがすべてハマっての今回の作戦だったのである。
そして同盟連合の、軍需産業は各地に配備されている兵器の換装やアップグレードに乗り出したのである。
「きみには以前[武器生産の力を一般兵器に回そうと思う]と言ったな? 確かにレイドライバーの生産は以前に三体送った。そして[しばらくは今送った兵装で何とかしのいでくれ]とも。しかしながら帝国は、もしかしたらそれ以上のスピードでレイドライバーを生産しているのかも知れない」
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昔は核兵器が[切り札]だった。それは小国でも、核を持てば大国に意見が出来る、そんな思惑から世間の目を縫ったり、時には大々的に核実験をして、それぞれの国が核兵器の開発に躍起になっていた。
大国はと言えばICBMを積んだ原子力潜水艦を何隻も作り、それらは海底へと潜り、一方の地上ではICBMの発射棟を完全に地中に潜らせてその位置を隠したり。
だが、この三国体制になってそれはほとんど意味をなさなくなったのだ。
何故か。
理由は至ってシンプルだ。どの国も核保有国だからである。そして核のボタンを押せば世界が終わる、この共通認識は最終的にブレる事なく三国体制へと移行したのである。
どの国も核を持っているというこの状況は、核兵器というものが[一般化]したと言える。つまり[特別な]兵器ではなくなったのだ。
核兵器と言えば、発射して爆発すれば核のゴミをまき散らしてその辺り一定が汚染されるような兵器である。必然、威力の大きな核兵器は相手の出方を伺いながらも徐々に数を減らしていった。
その代わりというべきなのか、超小型から小型の戦術核が作られるようになったのである。そして実際にそれらは局所的に使われたりもした。現に日本奪還作戦時、半島から小型の戦術核が飛んで来たのだから。
だがその威力は広島型原爆の数十分の一という限られたものである。それは、つまるところ[自分の領地になった時に使えない土地になっていたのでは困る]という認識から来るものである。
そんな折に登場したのがレイドライバーという陸上兵器であり、三五FDIという最新鋭機であり、三八FIという[考えるモノ]が乗った[無人機]なのである。これらは戦局を大きく変えた。その働きは各所で語られている通りである。
どの国もレイドライバーという兵器、最新鋭機という戦闘機が欲しいし、研究もしている。そして一たびそれが出現したとなれば、レイドライバーに対抗する兵器は同じレイドライバーとなるであろうし、最新鋭機たる機体が出現したとなれば、それと同格の戦闘機が必要になるのである。
だからこそどの国もその開発に躍起になっているし、アップグレードもしている。それはまだ完成形と呼べるものを持っていない共和国にしても同じなのだ。クリーンで、囲まれさえしなければ圧倒的な機動力を生かし、一体で戦車何十両もの働きをする。そんな兵器を始めて作ったのが、同盟連合なのだ。
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