33.どうやら帝国が通信を入れてきたらしい-折り入って相談したい案件を持って来た-
全47話予定です
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「どうやら帝国が通信を入れてきたらしい。同盟連合の意思決定機関に[相談]がある、と言って来ている」
本来ならばここで回線を遮断するのが常套なのだろう。だが、ここで話をしているのはレイドライバー隊の、まさに研究所所長であるカズである。それを知っての事だろう、
「回線をここに回してくれ」
と向こうの声は言った。
「お初にお目にかかる。私は帝国最高参謀のクロイツェルという。同盟連合の皆々方々に折り入って相談したい案件を持って来た」
と切り出す。
――まぁ、十中八九は領地の割譲の要求だろうな。
それはカズでなくとも分かる話だ。現在のパワーバランスは、レイドライバーの数でいっても航空機の数でいっても、艦隊の性能でいっても同盟連合は劣っている。そんな、誰が見ても分かる状況で相手が出してきた[相談]。そんなのは[停戦する代わりに領地を寄越せ]くらいしか思い浮かばない。
「今回、双方とも損害はそれほど小さくないのは見ての通りだと思う。そして、現在の戦力は我が方に有利である事も承知してもらっていると思う。だが、我々とて何も自決隊を送り込んだ訳ではない。それは同盟連合の方々も同じと思う。そこでだ」
クロイツェルの出した提案。それは旧アルゼンチンの北側半分を帝国の領土とする事、もし軍事的に再侵攻するにしても一年の猶予を設ける事、その一年は帝国も領土拡大はしないと約束する事、旧キューバ沖に展開している空母群と、米州の太平洋側から出撃して現在、太平洋沖で帝国の空母群とにらみ合いになっている艦隊も戦闘はせずに双方が帰還させる、というものであった。
――つまりは、最低でも一年はこの地をもらい受ける、と。一年か、それだけあればレイドライバーの数も増えるだろう。そうすればまた別の戦地を作れるだろうし。もしかしたらアルカテイルも視野に入っているのかも。
カズはそんな事を考えながらクロイツェルの話を聞いていた。
クロイツェルがすべてを話し終えてもなおその場には沈黙が残っていた。それはそうだ、米州にしてみれば面白くない。だが[やってやる]といって軍を動かせば、ほぼこちらの敗北は目に見えている。度々音声がミュートになる。おそらく今後の展望を話しているのだろう。
だがそれもしばらくして、
「分かった。その条件を飲もう。今回は貴国の勝ちだな」
向こうの声、おそらく政府上層部の声は少しトーンが低い。米州にしてみればそれも仕方のない話である。
それに対して、
「いや、結果的に領土を得たから勝利という訳ではない。こちらにも損害がかなり出た。それはお互い様だろう。だが、そちらの[メッセージ]は確かに受け取った。今後、どこでも戦地になり得るとお考え願おう。それは、こちらも同様だ。身構えている事にしよう」
クロイツェルはそう言ってから[そうそう]と付け加え、
「この場にレイドライバーの隊長殿はおられるかな?」
と切り出してきた。
――呼ばれちゃったよ、って、まぁこの状況なら呼ばれるか。
カズはそう思いながら、
「レイドライバー隊の隊長のカズ中佐であります。先日はお目通り頂き、ありがとうございました」
そう切り出す。その言葉に、
「確か前回会った時は大尉ではなかったか。まぁ、それだけ日本攻略が貴国にとって重要だった、という事だろう。それに、その働きぶりは十分見させてもらったよ、痛いほどにな。貴殿と私は敵同士、またいつかどこかで会う事もあるだろう。出来ればその時も前と同じように武器を持たず会ってみたいものだ」
――話し方からすると帝国人にしてみれば異質の部類に入るのかも知れない。おそらく理にかなっていない事はしないタイプだろう。それはそれで手ごわい相手なんだけどね。
そんな事を思いながら、
「覚えて頂いていたようで。これからの時代は核兵器の世界ではない、第三の新兵器としてレイドライバーというものがある、と認識しています。貴国もその開発に尽力されているようですが、こちらも負けるわけにはいきません。どこかの場でまたお会いするかもしれません。出来ればそれが戦場でない事を祈っております」
と返して、
「それでは、また」
回線はそこで切れたのだ。
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