31.現況を-あぁ、なるほど。これなら確かに生きていられますね-
全47話予定です
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トリシャは次に整備クルーの元へ向かう。そこで例の人物を呼び出してもらう。すると、直ぐにその人物は現れて、
「現況を」
と聞かれる。
あの戦場からサブプロセッサーを救出してきて、現在はゼロツーのコックピット内にいる旨の話をすると、
「分かりました、それは何とかしないといけませんね。手伝いを」
と言ってトリシャを連れてゼロツーの元へと向かう。当のゼロツーは、というと基地建物の整備ドックだったと思われる場所にいて目立たないようにしている。初めからトリシャがそう伝えたのだ。
「とりあえず身を隠してて」
それはサブプロセッサーをどうするか、というのが読めなかったからである。
二人がゼロツーのところへ向かう前に整備クルーはアタッシュケースのようなものをもって向かう。そこには立ち膝状態にしたゼロツーが待っていた。
「ハッチを」
と言うが早いか、それは直ぐに開いて、
「あぁ、なるほど。これなら確かに生きていられますね。よくこのプラグの存在が分かりましたね」
と尋ねられる。それを、
「ゼロツーに教えてもらったんです」
と素直に答えると、
「よくやりましたね」
彼がどんな心持でその言葉をゼロツーに掛けたのか分からない。純粋に生命を一つ救ったという意味なのか、それとも別の意味があるのか。
だが、トリシャがそれを推測している間に整備クルーはケースから何やら取り出して来て作業をしている。彼女ははただそれを見守るしかなかった。
その作業はそんなに時間がかかる訳ではなかった。時間にして二十分かかったかどうかだ。
「ゼロツー?」
とクルーが呼びかけると、
「オンラインだよ。そういう事ね」
とゼロツーの声がしたあと、
「私は本当に助けられたのですね」
とゼロシックスの声がコックピット内に響く。
「これは?」
当然、事情が分かっていないのでトリシャが説明を求めると、
「この点検用のプラグは、ゼロツーの循環系に並列して接続されているのです。つまり、二人で栄養を分け合っている状態なのですよ。ゼロシックスを機体外に持ち出すには生命装置が必要ですが、それは持ってきていない。とすればこのままこの中にいた方が何かと都合がいい。だから固定するステーを取り付けて据え付けにしたんですよ。そして意思疎通が図れるように音声回線をつないだ、と」
とまで言われて、
――あぁ、なるほどね。これも想定内なんだろうか。
と疑問に思ったが、それをここで聞いても彼を困らせるだけだと思い、
「という事はサブプロセッサー二台体制という理解で?」
と聞き返すと、
「機体のコントロールはゼロツーしか出来ません、あくまで生命維持と[喋られる]ようにしただけです。ゼロシックスはこの機体の操作は出来ませんよ」
と返される。
――でも、これで二人とも助けられた。あんな変な上気をしなくても済むわ。
今更ながらに撃ち合いをしていた時の自分を恥じた。あの時、確かにトリシャは上気していたのだ。そのまま撃ち合っていたら、もしかしたらその先へと至っていたかもしれない、それくらいある意味取り乱していたのである。
「じゃあ、これでひとまずは生命活動は確保できたのですね」
整備クルーといえば、軍の中での立場的には高いものもいるが、そうでないものの方が多数を占める。トリシャは臨時とはいえ少佐の地位にある。一般の整備士になら気兼ねなく話せるがこの整備クルーは違う。何と言っても研究所の人間なのだ。その整備クルーとなれば研究所の人間と対等の立場になる。
そして、いくらパイロットとはいえ研究所の人間にしてみれば被検体、つまりは自分たちより格下になるのである。それが分かるからこそトリシャは敬語を使うのだ。
これはどのパイロットにも言える。たとえレイリアでも、クリスでも相手に対しては敬語を使い、相手は普通の話し方をするのだ。そしてその扱いは被検体より若干マシというくらいである。
それを良しとしているのが現在の研究所の力を示している。それだけ軍が、政府がこの研究所に寄せている期待が大きいという表れなのだろう。
「これでひとまずは大丈夫。あとは戦況次第かな」
整備クルーはそんな言葉をつぶやいた。
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