3.少佐殿?-――!!-
全47話予定です
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――もっと、見てほしい……恥ずかしいほどに弱くなった私を見て……。
それはクリスが感じている感覚に近いのかも知れない。
トリシャは、以前にもこれと似た感情を抱いた事があった。だが、その時は[こんなの私じゃあない]と言わんばかりに頭の片隅に残っていたプライドが邪魔をした。
だが今はどうだ?
カズと[ミーティング]を重ねて従順になっていくと同時に、今までの勝気なトリシャというものが変質していったのだ。
いまでは、それこそクリスではないが[自分のせいで仲間が、それも大切なレイドライバーのパイロットが死んだら皆は何て言うだろうか]という事を考えて上気してしまう。それはまるでマゾヒズムではないか。
――こんなに変わってしまったのね。
頭のどこかでそんな自分を軽蔑する[自分]がいた。だが、その[自分]は主導権を握ってはくれないのだ。そんな前に出てこない[自分]は、それを自分と呼べるのか。トリシャの中でそう囁く別の自分がいるのだ。今のトリシャは弱くなったわけではない、ただカズに依存していて、その本人が隣にいないのが不安でたまらないのだ。
「少佐殿?」
――!!
レベッカがトリシャに語りかけた時、トリシャはまさにその事を考えていた。辛うじて声を出さなかったのは自分を褒めてあげたいとさえ思う。こんな経験は二度目である。
「ど、どうしたの?」
と聞き返すが、自分が進軍の合図を送っておきながら動いていないのに気が付き、
「そうね御免なさい、少し考え事をしていたの。行くわよ」
そう言って進軍を開始した。
――とりあえず一旦、その話は横に置いておこう。今はいかに敵より上位に立ち回れるかを考えるんだ。
そう、元々が味方を盾などにしなくても勝てる位置に陣取ればいいだけの話なのだから。この戦いは撃ち合いになる、しかも長期戦になるのは両方とも想定済みだ、だからバッテリーパックも増設されているし、リアクティブアーマーも装備している。
「より有利な地形を探しながら行きましょう、少しでも敵から遮蔽をとれるように」
というトリシャの意見は至極当然の話だ。もちろん二体ともレーダーの感度は上げてある。三次元計測による地形の割り出しと、同盟連合が有している地形データの参照も欠かさない。そうやって隣街まで進んでいる間、忘れようとしているあの考えが何度かトリシャの頭をよぎる。
――しっかりしなさい、私。こんな事ではあの男性の隣に立てないわ。
そんな思考までは読み取られてはいないだろうが、
「トリシャ、あんた大丈夫か?」
ゼロツーに心配される始末である。
「な、何が……って貴方にはある程度の感情なんかは伝わるんだったわね。そうね、カズの事を考えてたの」
素直に吐露する。
「まぁ、何か悶えてるなぁとは思ってはいたけどさ。マスターの命令を守る、それでいいんじゃあないか。味方を盾に、それが最悪の結果を招くとしても、あんたは、いやあーしたちは生き残らなければならない、それが命令なんだろ?」
そう言われて、慌ててトリシャは無線がオフラインになっているのを確認した。ゼロツーの[そんな間抜けはしないよ]の言葉のあと、
「そうね。私は弱くなったのかも知れない。こんな弱い私を見て笑われると、皆に指を刺されて笑われる。そう想像してしまうとたまらなくなるのよ」
そうゼロツーに話す。彼女は[うーん]とひと唸りしたあと、
「隣に立つんじゃあなかったのか?」
と言った。その言葉でトリシャははっと現実に帰って来る。
そして、
「やっぱり、貴方いいこと言うのね」
と笑顔で返すのだ。
全47話予定です