27.それだけで十分幸せなのだ-私は、他の人より惚れっぽいのかも知れない-
全47話予定です
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レベッカはトリシャにギュッとされる事で幸福感を得ていた。痛みがないか? と言われれば正直全身を強く打っているので体中が痛い。特に無くなった両足から先、これは末端だけあってここは痛みが強く出る。
人間という生き物は、神経の末端は敏感に出来ている。それは指先でものを触っただけで数ミクロンの凹凸が分かるほどに。そんな末端の神経ごと無くなってしまったのだ、痛くない訳がない。
それでもトリシャが抱いてくれている、それだけで十分幸せなのだ。
――私は、他の人より惚れっぽいのかも知れない。
レベッカにはその自覚はある。何せ彼女は昔に逢った女性に似ている人を見ると、どうしてもその女性に惚れてしまう、そんな癖があるのだ。
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レベッカは孤児として生きていた時に、いわゆる[人さらい]の類にあっている。他に行く当てもなかったレベッカはそこで娼婦の見習いとして働く事になったのだ。
と言っても他の娼婦の身の回りの世話、つまり雑用である。だが、当然そんな場所にいれは[そういう行為]の場面に遭遇する事も珍しくはない。実際に、最中に汚れた下着を投げられたこともあった。それでもレベッカに行く当てはないし、逃げることは出来ない。第一何処へ逃げるというのか。
――あぁ、自分もいつかはあんな風に客をとらされるのか。
そんな風に考えていた。
まさに生きながらに死んでいるとはこういう事なのだろう。ここでは[個]は重要視されない。十把一絡げ、とはまさにこの事を言うのだろう。そして重要視される[個]は商品としての女性や男性であり、レベッカたち下働きの人間ではない。
そんな日々がしばらく続いた。
だが、そんな中でも親切にしてくれる女性がいたのだ。頭目の目の届かないところでその女性はひいきしてくれた。今になってはなぜ自分だけひいきしてくれたのか、他にもひいきしていた子がいたのか、それすら分からないが、とにかく心を失っていたレベッカにその女性は救世主のように見えた。そしていつしか[特別な感情]を抱くようになる。
それが[恋心]というものだと気が付くには時間が必要だった。だが、一度自覚したあとはその女性の事が頭から離れなくなっていた。
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――あの頃から私は、あの女性に似た女性を見るとどうしてもその面影を重ねてしまう。それ程にあの女性は私にとって救いだった。出来ればもう一度逢いたい。だけどそれは無理な話。私は軍人、あの女性は娼婦。それに私の躰は既に私のものではない、政府の所有物だ。そんな私が出来る唯一の事。
それが、似た女性に心を想って自身の欲求を満たすというものなのだ。もちろん、そんな事をしても何もならないのは本人が一番よく知っている。
ただただ空しいだけだと。
それに、仮に相手との関係が成り立ったとしてもその夢は決して実現しない。何故ならパイロットは身も心も政府所有であり、恋愛は禁止されているからだ。
――それでも、この想いを伝えられるなら。
「あのっ、その、私は貴方の事が……」
とまで出た言葉に、
「嫌いになった?」
自嘲気味なトリシャの声に、レベッカは本能的に身体が動いていた。
フリーになっていた両腕でトリシャの頭を持ち、自身の唇に寄せたのだ。ゼロシックスはあらかじめギュッとされる為に膝に乗せていた、だから出来たのだ。
「っ」
トリシャは声にならない声を発していたが、直ぐに力を抜いていた。
――この想いは偽物でも何でもない。確かにあの女性に重ねているだけかもしれない、それでも貴方は私の好きなひとなんです。
全47話予定です