20.過去の話その2-トリシャは元々人付き合いが得意な方ではない-
全47話予定です
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トリシャは元々人付き合いが得意な方ではない。
それは前述の通りであるが、あの孤児院での生活を経験した彼女は[人とは関わるまい]と心に誓ったのだ。それでもレイリアとクリスという[友達]が出来たのはトリシャの中では大きな一歩だっただろう。
そんなだから、初めのうちはカズに何かというと突っかかっていた。それは貴方に興味がある、の裏返しだったのかも知れない。トリシャも周りに男性は父親くらいしかいない環境で育った。その為か、どう男性と接していいか分からずに成長してしまったのだ。孤児院の男性と言えば、正直ろくでもない大人ばかりだった。女性は、と言えば我関せずを地で行くように無関心、そんな感じが見て取れた。
総じて大人とは付き合いがなかったのだ。そしてあの孤児院はパイロットを、サブプロセッサーを養成する機関である。当然、同年代含めて男子などはいない。となれば兄弟のいたレイリアなどは除いて、一人っ子として育ったトリシャが男の人と接する機会は無かった。
孤児院を卒業後の軍事教練時代にいた男性は、上官であり暴力を振るわれる対象でしかなかった。
だからだろう。初めてカズにあった時にトリシャは何かを感じていた。
――この人は無意味に暴力を振るわないし、威圧的でもない。男の人ってこんな感じの生き物なの?
当時素直に感じた感想である。しかし、人見知りが強いトリシャがカズに自ら近寄って行く事は無かった。
そうこうしているうちにレイドライバー部隊は大戦果を上げ、忙殺されるようになる。その中で偶然にも自分と向き合う時間が生まれた。
単独潜入任務である。
[何もなかったら十日経ったらお迎えに上がります]と言われたその場所に、四週間もいる羽目になったのだ。
どこかで見られているかも、という不安と戦闘状態にある敵基地。自分が目標になっている訳ではない、と頭で分かっていても[でも、もしかしたら]が頭をよぎる。当然そんな環境でロクな睡眠をとるのも難しい。
尽きる食料、ギリギリで持たせている飲料、とても戦闘には耐えられそうにないレイドライバーの電源。そしてカズから渡された[レイドライバーの機密を知らずに機密事項にアクセスできる]と言われたチップ……。
トリシャがコンソールに刺したあとに出てきた画面にはいろんな文字か並んでいたが、その中で点滅している[循環]という文字が目を引く。そしてその[循環]は二行出ている。一行目はグリーンの文字で作動済み、二行目は赤く点滅して未作動となっていた。
――循環? どういう意味なのかしら?
疑問には思ったのだが、そこはあの孤児院からの軍隊の訓練所で、嫌というほど味わってきた[記憶]が蓋をする。
「とりあえず、二行目を作動させればいいのね」
なにも考えずにメニューを選び選択する。するとかすかだがモーター音がした。
トリシャはこの時自分が行った行為は知らない。だが、それは確実に動き出した。
トリシャの選択した行動、それはとても常人では受け入れがたいものだったのだ。
流動食はしばらくしてトリシャは気が付いた。それはそうだ、当然気持ちのいいものではないし、普通の人間なら到底受け入れられるものではない。
――循環ってこういう意味なのね。水分は聞いてたけど、まさか六日間の[処置]がこういう意味を持っていたなんて。でもこれをしないと生き延びられないのだとしたら、私は何だってするわ。
しかし、トリシャは自分の置かれている境遇に割り切りが出来る人間だ。生き残るのにそれしか道がないのだとしたらそれも受け入れるだけの覚悟はあるつもりでいる。
潜入任務でのトラブルから来る数々の困難。自分でも何故これほど生に執着があるのか分からない。それは孤児院にいた頃から感じてきた事だ。
[辛い、酷い、みじめな思いをするくらいなら、いっそ死んでしまったほうが色々と楽なのでは?]
だが、ただ辛いからと言って安易に死を選択するほどトリシャは追い詰められている訳ではない。
それでも、自分でもこんな目に遭っても生に執着する理由の答えが見いだせないでいた。
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