19.過去の話その1-トリシャの放り込まれたその孤児院-
全47話予定です
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当時の孤児院といえば、戦争で身寄りがなくなった者や元々身寄りと呼べるのがいない者が集められる場所であり、どこも満室に近い状況であった。
トリシャの放り込まれたその孤児院は、人数的にはそんなにいなかった。確かに食事などは粗末であって、彼女を絶望させるにはそれだけで十分だったのだが、他の施設に比べれば食事の奪い合いもないし、ちゃんと人数分は支給された。その献立も、ちゃんと栄養を考えられたものであった。
だが、異質なのはその生活である。[教育]と呼べるものを施されたのだ。公用語の読み書きから始まり、第二言語、第三言語、数学、地質学、物理学、医学、救護学、体育、護身術、はては上の者に対する口の利き方や、全体行動の際の規律、銃や他の火器の扱い方、あげく、拷問の耐え方まで叩き込まれた。まさしく[叩き込まれた]のだ。付いて来られないと平気でビンタやムチが飛んで来るし、酷ければその日の食事は絶望的であった。
そして、起床から就寝までの、その分単位でのスケジュールはまさに牢獄か兵舎、そう呼べるかもしれない。
さらに、一緒に集められた子供は全員が女の子だった。しかもちょうどトリシャと同じくらい十歳前後の、まだ子供、と呼べる年頃の娘たちである。
そして、これも異質なのだが、毎日の教育の合間合間の時間に定期的に身体検査をされたのだ。
体中を嫌だというほどくまなく検査された。当然、健康状態を見てはいるのだろうが、それにしても週二というハイペースである。
検査は女性の職員がするのだが、恥ずかしがったり抵抗したりすれば、即座に男性の職員が出てきて叩かれ、押さえつけられて、そのまま縛られ猿轡をされて恥辱とも呼べる検査は続けられた。
極めつけは、身体検査のあとの自由時間には縛られたままの状態で壇上に置かれ、皆への見せしめとして他の子供たちの[見世物]になるのだ。
そんな、異質ともいえる孤児院の暮らしであったが、脱落者、と呼べるものも少なからずいた。
そんな子たちは、ある日突然いなくなったのだ。そう[突然いなくなった]のである。それを施設の誰に聞いても口を閉ざしたままだし、しつこく聞けばビンタを喰らう、そんな状態だった。だからトリシャも、教育には必至で付いていくよう努めた。
幸い、元々頭のキレも良く自制心をちゃんとコントロール出来るトリシャは、そんな必死さもあって[突然いなくなった]り、指導員の[的]になったりしなくて済んだ。それに、元々が友達付き合いの苦手な彼女である。ここの暮らしは、友達付き合いを重視しなくても済む分だけ、まだ彼女にはやり易かったのかも知れない。
それでも彼女には友達と呼べそうな関係の子が出来たのは幸いと言うべきなのか。
両親の死と自分が置かれた環境に涙して、この異質もと呼べる空間に、ようやく一通り慣れ始めた頃、レイリアとクリスとは知り合った。
積極的に話しかけてくるレイリアとは対称に、おとなしくて物腰の穏やかな、というかどちらかというと何かに怯えているようにも見えるクリス。それを見てトリシャは[この子もいなくなる対象者にならなければいいけど]と思ったものだ。
現にクリスは何度も[見世物]になっている。元々羞恥心が強いのだろうが、どうやら見ていると男性に恐怖心があるようで、男性職員が複数人で押さえつけ、縛っていると何とも言えない表情を浮かべながら涙とそそうをしてしまうのだ。
絶望とも狂気ともつかないその表情に、クリスが浮かべる笑顔。
その笑みはどこから来るものなのか。
すでに[壊れて]しまっているのか、それとも[受け入れている]のか。
ならば羞恥心を捨てるか、と言えばそれは無理な話だ。だからちょくちょく[見世物]になるのだ。
だが、毎回ではないのは彼女なりにコントロールしている成果なのか。
そんな、他人に対して消極的ともいえるトリシャが二人に興味を示したのは、なにか通ずるものを感じ取ったのか、はたまたただの興味本位か。実際のところトリシャにとって二人は友達になった、という認識は本人にはなかったのだが、それでも彼女はその二人と[友達のようなもの]になったのだ。
人間は、一人でいるより複数人でいたほうが生活もしやすい。特に身寄りのない状態であればなおさらである。人付き合いの苦手なトリシャもそれは何となく分かっていたようで、教育課程で分からない事があればその二人に教えてもらい、また分からない事を彼女ら、といっても主にレイリアに、であるがそれぞれ教えあっていた。いわゆる[ギブ・アンド・テイク]の関係を築いたのだ。
ふと、トリシャは二人の事を考えた事がある。
――レイリアやクリスはどうしてここに連れてこられたのだろう。
見たところ、これは他の娘たちにも言えるのだが、初めからここにいた、という感じではなさそうだった。
これも多分、であるが、彼女と同時期に連れてこられたのはほぼ間違いないだろう。建物も新しかったのもある。
当時の、いや今でも孤児院と言えば、オンボロな平屋と相場が決まっていたのに、鉄筋の、それこそ[軍用ではないか?]と、今ではそう思えるほど頑丈に出来ていたのだ。実際、ペンキの匂いがまだ取れていなかったのもこの建物が新造されて間もない事を裏付けていると言えるだろう。
だが、余分なことは聞かない、トリシャはそう心に誓ってもいた。ただでさえその日の生活にビクビクしている毎日だ、これ以上の面倒事はまっぴら御免である。
そんな生活が、五年半も続いた。
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