18.オレの言いたい事、分かるよね?-少し過去の話をしよう-
全47話予定です
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「オレの言いたい事、分かるよね?」
――そう、私を罰して。
トリシャはそんな自分に時々驚愕すら覚える。それは過去の自分が現在の自分に驚いているのである。自分とは、こんなに他人に依存するものなのか。今までの自分は一体どこへ消えてしまったというのか。
少し過去の話をしよう。
――――――――
トリシャは孤児院の出身だ。
だが初めから孤児院にいた、という訳ではない。トリシャには両親がいたのだ。正確には、両親と彼女の三人暮らしをしていた。その頃の、そう今から十年ほど前、ちょうどまだ十歳だった彼女は、若干の人見知りがあるものの一般的な女の子と同じく、よく笑いよく泣く、表情の豊かな子だった。
両親は軍には勤めていなかったが、軍関係の仕事を生業としていた、それくらいがトリシャが知る両親の職業である。
トリシャがまだ幼かった当時、時代は戦争へと流れていたので、学校といえば中等部、つまり十ニ歳からであった。そして、残念ながら近所に友達はいなく、両親が働きに出ている時は、一人で遊ぶのが日課になっていたのだ。人見知りの性格はこの、彼女の置かれていた環境か少なからず関係していると言えるだろう。
だが、そんな両親はとても彼女の事をよく思い、正しく育てようとしていた。幸い生活にも困る事はなく、順風満帆な人生を謳歌していたし、謳歌できる、はずだった。
事の発端は、ある日の出来事であった。
いつものように父が職場に向かったあと、母が家事の片付けをしてから家を出ようとしたその時、一本の電話が鳴ったのだ。
「はい、エカードですが」
と電話に出た母の顔色がみるみる変わる。
「はいっ、すぐに向かいます!」
そう言いながら電話を切り、まだ幼いトリシャに、
「パパがね事故にあったって! 私もすぐに向かわないといけないの。いつものようにいい子でいられる?」
蒼白になりながらもなるべく冷静を装う母に、
「大丈夫! ママはパパのところにいってあげで。私はお家でお留守番してるから」
――私なら大丈夫。だから、ねっ? ママ。行ってあげて。
「お願いね。帰ってきたら美味しいパイを焼いてあげるから」
そう言って母は急いで家を出て行った。
結果として、パイは食べられなかったのだ。
一日たち、二日たちして彼女が焦りだしたころ、その人たちは前触れもなく訪れた。
「トリシャ・エカードちゃんだね? きみのご両親は残念ながら亡くなったよ」
そう聞かされたのである。もちろんまだ幼い彼女にそれを受け入れられるはずはなく、
「そんなの嘘よ! 貴方たち誰なの?」
と食って掛かるが、
「それと残念だが、きみには別のところで生活をしてもらうよ。ここは政府の貸している家なんだ」
そういって黒づくめの男たちに[今からすぐに支度をするように]と言われた。
「ここは私の、私たちの家よ!」
と抵抗してはみるものの、
「両親がいなくなった時点で、この家は政府の元に戻るんだ。それはどんな事情であれ変わらない」
「それに、なんで! なんでパパとママは死んじゃったの!?」
――二人とも朝出かける時はあんなに元気だったのに。
半ば当たり散らすようにその男たちに言うが、
「理由は言えない。守秘義務があるからだ。とにかく、きみのご両親は亡くなられた。そしてきみはこれから孤児院で暮らす事になる」
そんなやり取りをして、ほとんど身一つで出てきた彼女を待っていたのは、質素な貧しい暮らしと、厳しい規律、であった。
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