17.全部、話します-ある種のカウンセリングである事は間違いない-
全47話予定です
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「こちらゼロツー、応答願います」
同時刻、トリシャは無線通信をしていた。相手は、カズである。
「お疲れ様、きみからの無線という事は予定通りなのかな?」
そう尋ねるカズに、トリシャは今まであった事を一から話した。敵と撃ち合いになった事、こちらはゼロシックスを遮蔽に撃った事、相手も一体を遮蔽にして撃って来た事、ある程度の撃ち合いのあと、敵将校の提案で互いの味方を助けた事。
――全部、話します。
「となると、レベッカ准尉は生きてる、と?」
との問いに、
「両足を負傷全身を強く打ってはいるものの、命までは失わなかったわ。ゼロシックスの機体は爆破処理したけど、サブプロセッサーも救出したわ。敵は……パイロットを救出しているところまでは見ていたのだけど、それから先は分からない」
と素直に所見を述べる。
「それと、その……」
トリシャは素直に腕時計の話をした。それはカズには秘密を持ってはいけない、という彼女の中の[自分]がそうさせたのだ。
隷属した時にはまだ幼かった[自分]はカズとの[ミーティング]を繰り返す事で成長し、いつしか自分を構成するまでになった。[自分]という性格はまさにカズに隷属、つまり奴隷と化している人格である。プライドを捨て、カズの為になんでもする、そんな人格だ。
トリシャは、初めはそんな[自分]が許せなかった。
――こんなの本当の私じゃあない。こんな、他人に頼って他人の靴をなめるようなそんな性格は決して私じゃあない。
そう考えていた。だが、一歩また一歩と[自分]が心の中で占める割合が大きくなっていった。それにはいくら性格のきついトリシャとはいえ抗えなかったのである。
そうしているうちにトリシャの[自分]はトリシャを変えるまでになった。その一端が他人への優しさである。彼女は元々が[我関せず]の性格だった。それは孤児院でのあの異常な生活でより強固なものになった。実際、他人には今でもそんなそぶりを見せる。だが、トリシャにも仲間が出来た。そしてカズという存在。
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トリシャは確実に変わった。その主な原因となったのがやはりカズであり、彼のした[ミーティング]という名の[調律]であろう。
カズは医師だ。それは内科、外科の他に、精神分野においても秀でている。あの研究所で、まさしく[生きるか死ぬか]の被検体を何体も見てきた彼だからこそ分かる、彼独自の精神世界。その技術を使って[ミーティング]でトリシャに少しずつ植え付けていく。
トリシャからすれば無意識のうちに自分というものが[自分]というものに置き換えられていったのだ。
カズが行っている[ミーティング]確かにそれだけを見れば卑猥なものだ、と言われかねないし、本人も恐らくそれは分かっているだろう。だが、カズは[そういう行為]は一切していないし、手を出してくるような事もなかった。その代わり、耐えられるかどうかギリギリの恰好であったり、台詞であったりを少しずつ繰り返し行わせる事で相手の性格の中に目的のものを、文字通り[刷り込んで]いく。
それは言葉を変えればカウンセリング、ともいえるのかも知れない。精神科領域の、ある種のカウンセリングである事は間違いない。カズはそうやって一人、また一人と自分の[ランク付け]の中に入れて行ったのである。そして、そのランクに入った娘たちは一人、また一人とある意味カズのしもべになっていったのである。
今ではトリシャ、クリスがそのしもべにあたる。
ではレイリアは?
カズはレイリアには手を出していない。その代わり彼女には[命令に逆らわない]という条件を付けて千歳の代わりにしている。いや、してしまっているのだ。定期的に呼んではそういう行為をする。そして抱きしめ合って過ごすのだ。
カズの中でレイリアは確実に千歳の代わりになりつつあるのである。
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