16.原子力潜水艦を急遽改装できないか?-停戦期間は六か月間だ-
全47話予定です
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クロイツェルの話では、増産されたレイドライバーには元々輸送を視野に入れて、ある程度コンパクトに格納できるよう改良がなされていたのだ。折しもその増産をしている最中に日本が侵攻を受けている、という報が入った。
そこで、分解などはせず、よりコンパクトにして輸送機なりに積めないか、と模索が始まったのだ。その中で編み出されたのが[潜水艦による輸送]である。
昔、大東亜戦争当時の旧日本海軍には伊型潜水艦、というものが存在していた。この伊型には水上偵察機を格納できるスペースが設けられていた。この当時の潜水艦としては画期的な考え方である。この構造は、米国に接収、研究されたのち、現在でいうICBM(大陸間弾道ミサイル)搭載型原子力潜水艦の構想へとつながっていく。
帝国には原子力潜水艦の他に通常型の潜水艦もある。クロイツェルはその中で、原子力潜水艦に着目したのだ。
「このご時世ICBMなど搭載していても、核戦争になればどの道世界は終わる。だから実質のところ配備はされてはいるものの偵察任務くらいしかこなせていなかった。本国にも解体しようと停泊してあった原子力潜水艦が何隻かあったのだよ。そこでだ」
停泊していた原子力潜水艦を急遽改装できないか? という話になったのである。ICBMの発射管から格納庫まですべて取り除き、その部分にレイドライバーを収納できるスペースを作る。合わせてレイドライバー側も収納できるように設計を途中変更したのだ。
通常、船舶の改装工事は半年から長ければ数年というスパンで見ないといけない。だが、停戦期間は六か月間だ、その間に[仕上げないと]いけない。そこで、造船所の方にも急遽改装の指示が行ったのである。
そうは言うものの流石に何隻も改装して実戦に、などという訳にはいかない。そこで[とりあえず一隻だけでも]という話になったのだ。そしてそれは間に合わせ、解体したレイドライバーを整備クルー共々陸路で大陸まで運び、造船所でそれを組み立てて乗せ、現地まで直行、となったのである。
この計画では味方のレイドライバー一体を失う羽目になっても、敵レイドライバー一体を撃破出来ればいい、という前提の上に立っている。
その為にはレイドライバーは最悪でも一体、確実に生き残ってもらわないとツーマンセルが作り出せない。もちろん、相手をすべて撃破したいのは山々であるが、最悪、こちらの一体を失っても相手のレイドライバー一体を行動不能に出来ればいいのだ。そうすれば増援として送った機体でツーマンセルが組める。
だからクラウディアは[例えペアの相手を遮蔽にしてでもきみには生き残ってもらいたい]とシュエメイに告げたのだ。ライラを見捨てる羽目になってもシュエメイの機体だけは生き残る。そこで、原子力潜水艦による水中輸送である。やれ、一体倒したと勝気になっている同盟連合が、いない筈の、あるはずのない二体目がそこに現れたらどうなるか。
確かに艦隊にも被害が出ている。ミサイル艦三隻の中破とフリゲート艦の中破、それに空母甲板への被弾が主な被害であるが、中破と言ってもどれも航行は可能だ。飛行甲板も少し時間が稼げれば直せるだろう。
…………
となれば、事実上艦隊はほぼ残存、中破している艦船もいるが、空母を中心にイージス艦が一隻、ミサイル艦が三隻、フリゲート艦が四隻の計九隻がそのまま残っている。
対して同盟連合側は、同じく飛行甲板が損傷した空母にミサイル艦が四隻、フリゲート艦が一隻自沈したので三隻という構成だ。イージス艦が居なくなった現在、艦隊戦を仕掛ければ、無傷でイージス艦を有している帝国の方が有利かも知れない。
航空機も、最新鋭機であるM三一DIは一機健在だ。もちろん同盟連合も一機撃墜したもののもう一機は健在、つまりはイーブンである。いや、胴体着陸をして使い物にならなくなっているからこちらの方が上だろう。
…………
艦隊はこちら側の優勢、レイドライバーの数で言えば二対一、航空部隊はほぼイーブンとなれば同盟連合も[何かしか]考えなければならない状況になるだろう。
そこで、
「ここまで状況を作ってから相手と話をしようと思う」
クロイツェルは確かにそう言ったのだ。
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