12.これ、持っててもらえる?-絶対に離しませんから-
全47話予定です
曜日に関係なく毎日1話ずつ18:00にアップします(例外あり)
※特に告知していなければ毎日投稿です
「ゼロツー、通信を貴方だけに切り替えて頂戴。それと、ゼロシックスに栄養を行き渡らせる方法、たしかあるわよね?」
と聞く。ゼロツーは[もう、マスターの許可なしにこんなのしないでくれよ、寿命が縮まるっつーの]と言ってから、
「点検用のコネクターが座席のうしろにあるから、それにパイプを接続すればあーしの循環の中に入れられるぜ」
点検用のプラグ、それはまさに点検用なのだが、そこから薬剤を注入したりこういうサブプロセッサーを臨時で運んだりするのを見越して設けられている設備なのだ。それは、もしかしたらいずれはサブプロセッサーを、レイドライバー一体に付き二個積んだり、といった可能性も残している、そういう為なのかもしれない。レイドライバーという兵器は第二世代化して一応の性能の飛躍をみたものの、まだ発展途中というところだろう。
トリシャは言われたように、点検用のプラグにゼロシックスの底のほうの外殻に付いているフラグソケットをパイプで結んで、
「御免なさい、これ、持っててもらえる?」
そう言ってレベッカにゼロシックスを持たせる。
「分かりました、絶対に離しませんから」
レベッカはそう言うとしっかりと抱きしめる。先ほどの戦いで負ったダメージは身体に残っているのであろう。だが、トリシャが打った鎮痛剤の効果が出てきたのか落ち着いた声でそう答えた。
――ここはここで良いペアなのかも知れない。
トリシャはそんな事を思いながら作業がひと段落したので、ゼロシックスの機体を爆破する準備に取り掛かる。
レイドライバーは三五FDIや三八FIのように機密性が高い機体だ。当然それを鹵獲などされてはたまったものではない。当たり前だが、カズの機体を含めてレイドライバーにも爆薬が積まれている。
この爆薬と装甲の関係は上手く出来ており、爆薬に点火するとある程度内部が破壊されるまでは装甲が爆風の威力を逃がさないようになっている。だが、しばらくするとその装甲すらも四散させるような威力の爆発が起きる。
爆薬は機密性を維持しなければならない場所に効果的に配置されている。まぁ、それを言ったら帝国のレイドライバーだって同じなのだろう。現にクリスは破片とごくわずかしか敵の部品を持ち帰られなかったのだから。
「敵将校に告ぐ、こちらの準備は終わった。お互いに爆破処理しておしまい、それでいいのね?」
と尋ねると、向こうも作業が終わったようで、
「それで構わない。では爆破する」
「了解した、こちらも爆破する」
そう言ってトリシャは爆破シーケンスに入る。
ゼロツーの声で[このシーケンスは一度スタートすると止められません、実行しますか?]という無機質な口調の声で問いかけられる。これは、ゼロツーの意思で喋っているものではない。爆破、という命令に生体コンピューターが反応して一時的にゼロツーの意識、言語を操っているのだ。
自我のあるサブプロセッサーが主流になった現在、政府と研究所はありとあらゆる手段で離反を防ぐように手立てをしている。その一端が脳科学を織り交ぜた[調律]である。そしてもう一つの手段がこの[コンピューターがサブプロセッサー本人の意識に介入する]という事なのだ。
全47話予定です