11.そんな事をしたらマスターが何て言うか-大丈夫、私がすべて引き受けるから-
全47話予定です
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「ここね」
トリシャは血の匂いのするコックピットに入って、ちょうど椅子のあたりを探る。するとイジェクトレバーがあったのでそれを引く。と同時に椅子がうしろのめりになり、サブプロセッサーがせり出してくる。
――パッと見はどこも損傷は無いように見えるけれど。
だが、サブパネルには確かにバイタルが表示されている。トリシャはあまり医学の事は詳しくないが、一通りの座学を孤児院の時代に経験している。その知識を手繰ると、脳波は出ていることくらいは分かる。
――という事は……。
「ゼロツー、この周波数にゼロシックスを繋げることは出来る?」
と尋ねる。ゼロツーは直ぐに、
「で、出来るっちゃあ出来るけど、そんな事をしたらマスターが何て言うか」
ゼロツーが珍しく動揺する。
それはそうだ、ただでさえ敵将校の提案を飲んで、本当なら爆破処理しなければならないこの機体のサブプロセッサーに、ゼロツー専用にと持たせてくれた腕時計の周波数を合わせるなんて。
カズが知ったら普通の[おしおき]ではすまされない。もちろんトリシャ本人が当然その責を負うのだが、ゼロツーにも責任がかかって来る。そうなれば[あれやこれや]されるのは間違いないだろう。それがどんなものかの一端を、既に無いその躰で味わっているからこそゼロツーはこんなに動揺するのだ。
「大丈夫、私がすべて引き受けるから」
――カズになら何をされても、それこそ拷問されても、いい。
トリシャの心はこんな状況でも揺れるのだ。レベッカを盾にした罪悪感、それを周りが何と言うか考えると心の中で感じてしまう上気、自分への嫌悪感、そしてカズに罰してもらえるという期待感。トリシャは自分がカズに何をされるかを考えるだけで鳥肌が立ってしまう。それほどにカズに依存しているともいえる。
もっと見てほしい、もっと叱ってほしい、もっと、もっと……。
だが、ふと[命令も守れない、お使いも出来ないお前は要らない]と言われるのではないかという不安感も同時に抱えている。
――あぁ、私はいつからこんなに弱くなってしまったのだろう。
トリシャはそれほどにカズを欲している、そしてクリス同様に依存しているのだ。
そんなトリシャだが、いつまでも余韻に浸っている場合ではないのくらいは分かっているので、
「繋げて」
と再度頼む。ゼロツーの[知らねーよー]の一言を聞いたあとに、
「少佐殿で、あります、か?」
とゼロシックスと思われる[モノ]の声がする。
「ええ、私がトリシャ少佐よ、現状報告出来る?」
と尋ねる。相手はおそらく脳震盪を起こしているのだろう、途切れ途切れに、
「把握できるね範囲で言うと、この機体は、修復は不可能と、思われます。自立系に、も深刻なダメージ、があり、そこはフレームと、同じで、修理不可能な、部分なの、です」
と返答がある。そして、
「私自身は、少しめまいが、しますが、正常です。私は、この機体と一緒に、爆破処理、されるのです、よね?」
と聞いて来た。それを、
「パイロットもサブプロセッサーも私が死なせない。貴方は生きるのよ」
――お願い、死なないで欲しい。それは私の本心なの。
とトリシャが言う。その言葉に、
「私は、敵と戦って、敵を倒した、それでいいん、です。その上、まだ生きろと、言うんですか?」
「でも、敵は他にもいる。それはここだけじゃあない、全世界にいるの。それでも自分はここで死ぬと?」
というトリシャの言葉にゼロシックスは黙る。トリシャの言っているのは事実だからだ。確かにゼロシックスは敵のレイドライバー一体を仕留めた、だが、戦闘はそれで終息する訳ではない。
それ一体だけを倒したとて、全世界で起きている戦闘状態はなくならないし、帝国や共和国が同盟連合に併合される事は無い。とすれば敵はなくならないのである。
「もう少しあんたと話をしていたいんだけど、敵将校の手前、そんなに悠長にしてらんない。このまま取り出せば、確か少しの移動くらいなら問題ないのよね?」
と諭すと、
「そう、ですね。確かに、敵はひとりじゃあ、ない。貴方に、救ってもらったこの命、貴方をマスターと、同格に定義、します。もしその時が来たら、真っ先に命令して、ください」
ゼロシックスは確かにそう言ったのだ。
「ありがとう。それじゃあやってしまいましょう」
そう言うとサブプロセッサーユニットをイジェクトしてそのままゼロツーのところへ持っていき、レベッカと一緒にコックピットに乗せる。
全47話予定です