告白
全六話、一気に投稿しましたので、読み抜けが無いかご注意ください。
芽衣はスタイル以外も抜群だ。
子供らしいあどけなさの中に大人の女性らしさが混ざり始めた顔立ちはとても整っていて可愛らしい。
肌や髪も手入れされていて、つるつるさらさらだ。
ニキビが出来る気配すら無い。
精神年齢が幼い芽衣が何故肌や髪の手入れなんてしているのか不思議に思ったが、どうやら芽衣の母親が無理矢理やらせていたとのこと。
せっかくのお宝を腐らせる訳には行かないと思っていたそうで、グッジョブである。
いわゆる美少女。
もちろん男子からの人気はとても高い。
でも芽衣は僕にご執心で、周囲からは付き合っているようにしか見えない。
かといって芽衣本人はそれを否定するし、僕も芽衣が否定している以上は否定するしかない。
もやもや。
僕らがはっきりしないから、男子達は苛立ちを覚えていた。
付き合ってないのなら彼女にしたい。
告白したい。
でも僕がずっと芽衣の傍にいるから、芽衣と仲良くなるチャンスが無い。
男子達は良く我慢した方だと思う。
彼らが行動を起こしたのは中学三年生になってからだった。
二学期に入ったある日、僕は何人かの男子に呼び出された。
「何か用?」
なんて言ってみたけれど、用事はもう分かっていた。
「お前、元城さんと付き合ってないんだよな」
「うん、付き合ってないよ」
「だったら離れてくれねーかな。俺達付き合いたいのに近づけねーんだよ」
ごもっともだ。
むしろこの程度しか言われないなんて甘いとすら思った。
僕はほっとしながら考える。
芽衣のことが好きだ。
それも異性として好きだ。
芽衣は僕の事を異性と思ってくれていないけれど、ずっと傍に居てくれるからそれだけで満足だった。
今の関係を壊してまで、僕を異性として認識してもらおうとは思っていなかった。
でも、彼らに言われて気付いてしまった。
芽衣が僕を異性として意識していないということは、最初に芽衣が異性を意識するのは僕以外になる可能性もありえるということだ。
彼らの誰かが告白し、それが丁度芽衣の精神が成長するタイミングで、なんてこともありえるかもしれない。
そんなのは嫌だ。
僕は芽衣が好きだ。
例え傲慢だと思われようとも、独占欲が強いと思われようとも、僕は芽衣とずっと一緒に居たい。
「嫌です。僕は芽衣が好きだから、誰にも渡さない」
この日僕は、芽衣に告白すると決めたのだった。
ただ、時期的に僕らは受験生だ。
告白して芽衣が動揺して一緒の高校に進学できなくなるなんてことになったら最悪だ。
だから僕が告白するのは卒業式の日、そう決めた。
「湊、高校でもよろしくね」
幸いにも狙った通りに同じ高校に進学が決まった僕と芽衣。
これまでの延長線上だと思っているのか、芽衣は卒業など何でもないかのように微笑んだ。
その芽衣に僕は爆弾を落とすことになる。
恋愛という名の巨大な爆弾を。
「芽衣、好きだよ」
「突然どうしたの? 私も湊のこと好きだよ」
こうなることは分かっていた。
芽衣は単に幼馴染としての好きと勘違いして来るだろうと。
だからはっきりと伝えた。
「僕は芽衣のことが、女の子としても好きなんだ。ただの幼馴染じゃなくて、恋人になって欲しい」
さぁどうなる。
きょとんとするか。
それとも真っ赤になるか。
まさかのお断りか。
芽衣は天使のような笑みのまま硬直していた。
僕の言葉の意味を理解しようとして理解出来なくてフリーズしているのかな。
どれだけの時間が経ったか。
やがて芽衣は僕に背を向け走り去った。
「あ、あれ? 返事は?」
――――――――
もんもんもんもん。
もんもんもんもん。
もんもんもんもん。
春休み期間の僕の心情である。
告白して以降、芽衣と会っていない。
毎日会話していたLI〇Eも音沙汰がない。
不安だ。
嫌われたかもしれない。
でも選んだのは僕だ。
後悔はしていない。
嘘、本当はちょっとだけ後悔している。
やっぱり焦らず今まで通りの関係で良かったのではと思ってしまう自分がいる。
告白の仕方が間違っていたのだろうか。
僕から答えを催促すべきなのだろうか。
あの時の事は忘れて、なんて無かったことにすべきだろうか。
何が正解なのか分からない。
短い短い春休み。
今まで通りの関係であれば、新しい制服を見せ合いっこしたり、高校でやりたいことを話したり、園芸に関する話をしたりと、あっという間に過ぎ去っていただろう。
でも今は時間が経つのが遅い。
今すぐにでも芽衣に会いたい。
話をしたい。
触れ合いたい。
これほどまでに長い間、芽衣と離れ離れになったことはこれまでなかった。
だからだろうか、胸が苦しくて切なくて張り裂けそうだ。
こんなに辛い気持ちになるなんて思わなかった。
告白なんてしなければ良かった。
最初は後悔していないと思っていたのに、どんどん後悔してしまう。
恐らくは、この時が僕にとって人生で一番辛い時期だった。
でもこの辛い時間を過ごすことには大きな意味があったのだと、かなり後で知ることになる。
芽衣もまた、離れ離れの時間を経て、大切な気持ちに気付いたのだと。
『いつもの場所』
高校入学の前日。
LI〇Eメッセージが来た。
僕と芽衣にとってのいつもの場所と言えば、近所の公園だ。
幼い頃は一緒に遊び、成長してからは待ち合わせ場所として使っているところ。
僕は走った。
息をきらせて、全力で走った。
もしかしたら断られるのかもしれない。
そんな不安など無かった。
告白の返事を気にするよりも、芽衣に会いたい気持ちが溢れ出て止まらなかったからだ。
「芽衣!」
走って来た勢いのまま芽衣の元へ向かおうとする僕だったけれど、その足は止まってしまった。
何故ならば、そこにいたのは芽衣であって芽衣でなかったからだ。
薄く塗られた口紅に、丁寧に飾り付けられた髪。
低めの赤いヒールを履き、落ち着いた色合いの大人びた服装。
女の子の芽衣ではない。
女性の芽衣がそこに居た。
そのあまりの可憐さに、僕は見惚れてしまい動けなくなってしまった。
ゆっくりと、慣れない足取りで芽衣が僕の方にやってくる。
その顔が桜の花びらよりも赤く染まっていた。
ああ、芽衣は恋を知ったんだ。
僕に恋してくれているんだ。
その芽衣が、口を開いた。
「きょ、きょこ、これから、よろひくおねがいひます!」
あまりにも緊張していたのか、声が裏返ってしまっていた。
見た目の大人っぽさとのギャップがまたとても可愛らしくて、僕はもう我慢が出来なかった。
「芽衣!」
思わずその体を抱き締めた。
こうして自分から芽衣に強く触れたのは初めてだ。
やわらかい、そして同時に華奢だなと思った。
大切な幼馴染の女の子。
一生大事にするのだと僕は心に誓……
「ひゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
芽衣が恋愛に関してかなり初心だったことを僕はこの時初めて知った。
後に芽衣は語る。
私がもっと早くに湊の事を意識していれば、あんな醜態は見せなかったのに、と。
そう後悔していた芽衣の笑顔はとても可愛らしかった。