ハグ
小学校の高学年くらいから、女子は女子らしい体つきへと変わって行く。
その変化を見て思春期に突入した男子もそれなりに多いに違いない。
天真爛漫、それすなわち、良く食べ、良く遊び、良く笑う。
のびのびと育ったからだろうか、芽衣の体はすくすくという言葉が似合うほどに成長した。
セーラー服を押し上げる程度に膨らんだ胸、丸みを帯びた体つき、健康的で程よく締まった手足。
中学一年生にして、男子が『女』として意識してしまうのは当然だった。
芽衣をエロい目で見てくる同級生に対してイラっとしたことは数えきれないほどだ。
自分も同じだから人のことは言えないのだが。
急速に大人へと成長する芽衣だが、その中身は相変わらず子供のまま。
自分の肉体が男子にどれほどの影響を及ぼすのか理解していない芽衣は、無邪気に僕に触れてくる。
触れて来るだけならまだいい。
「み~なと!」
「!?!?!?!?」
芽衣は良く僕に抱き着いて来たんだ。
その度に柔らかな感触が伝わって来て、下半身が反応しないようにと必死だった。
「ちょっと芽衣、は、離れて」
「え~なんで?」
僕が嫌がると、それを面白がってかより強く抱き締めてくる。
あててんのよ、という意志が全く無いところ質が悪い。
「暑いんだって」
「ぶ~ぶ~」
どうにか宥めて引き剥がし、その日の晩に芽衣の感触を思い出して……というのも日常茶飯事だった。
だってしょうがないだろう?
冬場ならまだしも、夏場の超薄着で抱き着いて来るんだもん。
その場で襲い掛からなかっただけ紳士だと思ってくれよ!
――――――――
もちろん高校生になって付き合い出してからは芽衣が抱き着いてくることは無くなった。
中学までの癖でつい体が勝手に、なんてことも流石に無いようだ。
中学の頃よりも遥かに成長した芽衣の体を堪能できないのは寂しいけれど、僕は別に芽衣の体つきがエロいから好きなわけでは無いのだ。
芽衣が嫌だと思うのなら我慢するさ。
半分強がり、半分本心。
でも芽衣とハグするのは一体いつになるのだろうか。
性を意識した芽衣は、ここ最近のやらかしのせいもあって、かなり慎重になっている。
反射的な行動もぐっと減って来た。
精神衛生上は問題無いけれど、これまでが刺激的過ぎたから物足りない。
そんな風に思っていた時もありました。
「みなと~! いっけ~!」
聞き慣れた応援の声を背に僕は走る。
普通に名前を呼ばれているけれど、それは芽衣のテンションが上がっているからだろう。
テンションが上がっているのは芽衣だけでは無い。
「えいっ! よし!」
片手で持ったボールを力いっぱい投げつけると、相手キーパーの脇をすり抜け見事にゴールに突き刺さる。
今日は高校の球技大会で、僕達一年生男子はハンドボールで戦う。
芽衣は運動会や球技大会といった学校行事が大好きで、いつも全力で応援してくれるんだ。
僕もその応援を受けて頑張らなきゃって思って全力で試合に臨んでいる。
あまりの楽しさで、僕の名前を呼んでも気恥ずかしく感じていないのだろう。
そんな芽衣の彼氏として、格好良いところを見せなくちゃ。
試合は一進一退の攻防を繰り広げ、試合終了の直前。
「とりゃああああああああ!」
「いっけええええ!」
僕の特攻が功を奏し、ギリギリで勝利することが出来た。
「やったよ、芽衣」
「みなとすごーい!」
「え?」
ちょっ、芽衣。
だ、抱きっ。
「すごいすごーい! めっちゃ格好良かったよ!」
「ひゃっ!」
声が、耳元で、それに、や、柔らか……
体操服ごしに芽衣の柔らかな感触がががが。
中学の時よりも明らかに成長してる。
しかもなんかその、汗かいているからか、色々な女の子の香りもするし、り、理性が……
「あれ? 湊どうしたの?」
気付いて!
早く気付いて!
もう限界だよ!
「ねぇ湊ったら……………………」
あ、これは気付いたな。
「ひゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
はいはい、後悔後悔。
というか、久しぶりの感触ですっごいドキドキしたから、これから僕の方が意識しちゃって辛そう。