囃し立てられる
小学校の低学年から中学年になる頃、男子も女子も異性と遊ぶのが気恥ずかしくなり一緒に遊ばなくなる、というのはよくある話だ。
稀に気にしない子供達も居るが、クラスメイト達などから囃し立てられることで距離を取ることになる。
でも芽衣はそれすらも気にせずに僕と一緒にいることを選んだ。
僕としてはみんなから揶揄われるのがとても恥ずかしかったけれど、芽衣が離れてくれないのだから我慢するしか無かった。
「芽衣ちゃんって音無君のことが好きなの?」
「うん!」
「きゃああ! じゃあ付き合ってるの?」
「付き合ってないよ」
「え?」
「そういうの良く分かんない」
小学生の頃の話、かと思いきや、なんと中学生でも似たような会話をしてたんだ。
しかも照れ隠しじゃなくて本気で言ってるみたいだから、芽衣の友達は唖然としてた。
「それって絶対好きなんだって」
「そっかな」
「傍に居るとドキドキしない?」
「しないよ」
「キスしたいなって思わない?」
「思わないよ」
「え~じゃあなんで一緒にいるのさ。変だよ」
「む~変じゃないもん」
友達に何を言われても、僕のことを恋愛対象として見ていないと芽衣は断言していた。
そんな芽衣の姿を見て何度がっかりしたことか。
こういう恋愛話をすれば僕のことを男として意識してくれるのが普通だと思うのだけど、そんな兆候も全く無かった。
僕が鈍感だとか、芽衣が気持ちを隠すのが上手すぎるだけで本当は意識してくれているのではないか、そんな風に悩んだこともある。
でもある日、恋愛話が大好きな女子に言われたんだ。
「あれはマジで何も感じてないよ。苦労するね」
どうやら第三者の目から見ても脈が無いようで憐れまれてしまった。
クラスメイトに何を言われようとも、僕がどれだけ思わせぶりな態度をとっても、芽衣は何も変わらず天真爛漫な姿で僕を魅了し続けた。
――――――――
「芽衣って音無君のこと好きすぎだよね」
「中学の時は恋愛なんて興味な~いって感じだったのに」
「変わるもんだよね~」
「~~~~っ!」
僕と芽衣は別のクラスなのに、敢えて芽衣を僕のクラスに呼んで話をしてくれるなんて、芽衣の友達GJだ。
僕に聞こえるかどうかギリギリの大きさで会話して、芽衣を照れさせて弄るという魂胆なのだろう。
分かる分かる、恥じらう芽衣って超可愛いもんね。
「あの芽衣がこんなにしおらしくなるなんて。別人みたい」
「いつでもどこでも『みなとみなと~』って惚気てたのに、逆に何も言わなくなるなんて」
「むぅ~、べ、別に惚気てないもん」
芽衣が顔をぷぅと膨らませて少し不機嫌そうだ。
「おやおや、私が愛しの彼の名前を呼んだだけで不機嫌モードですか。独占欲ぱないっすね」
「ち、ちち、違」
「違うの? じゃあ私、音無君にアタックしよっかな。前々から格好良いなって思ってたの。誘惑して奪っちゃおうかな」
「だめえええええええ!」
「「「「はい、可愛い」」」」
はい、可愛い。
そりゃあ弄りたくもなるよね。
前は何を言っても暖簾に腕押しって感じだったのに、今では揶揄う度に真っ赤になって反応するのだから。
「ねぇねぇ、音無君のどこが好きなの?」
「そんなの……ここじゃ言えない……」
「大丈夫だって、離れてるし聞こえてないよ」
聞こえてます。
聞いてないフリしながら全力で耳を傾けてます。
「むしろ聞かせてあげたら? 喜ぶと思うよ」
「うんうん、これまで散々待たせたんだから、そのくらい言ってあげても良いんじゃない」
「うう~~~~っ!」
誰か動画に保存しておいてくれませんか。
ガン見して脳内フォルダに焼き付けておきたいところだけれど、見られていると思ったら何も言ってくれ無さそうだから見ないふりしておかないと。
「…………」
「聞こえないよ~」
「もっと大きな声でどうぞ」
そうだそうだ。
こっからじゃ全く聞こえないよ。
「~~~~っ! …………ろ」
「やっぱり聞こえないって」
「教室中に聞こえるくらいに叫ぼうよ」
そうだそうだ。
録音準備出来てるよ。
「~~~~っ!」
「あ、逃げた」
「やりすぎちゃったかな」
そんなことはありません。
ありがとうございます。
ありがとうございます。
ありがとうございます。
芽衣をいじっていた女友達の一人がこっちを見てウインクする。
彼女は昔、『あれはマジで何も感じてないよ。苦労するね』と僕を憐れんでくれた人だ。
何の因果か高校も一緒で、こうして僕に素敵なプレゼントをくれる。
しかも芽衣に勘違いされないように僕に不必要に接触してこないから助かる。
何故彼女がそこまでして僕をフォローしてくれるのか。
彼女いわく『あんたがあまりにも不憫だったんで』とのこと。
どんだけ悲しい人だと思われていたのかと涙した。
念のために言っておくけれど、彼女は今は彼氏がいるので余計な勘違いをしてはならない。
さて、まだ昼休みは残っているし、芽衣のところに行ってくるかな。
今ごろきっと、どうして昔友達に囃し立てられて僕の事を意識しなかったのだろうかと後悔しているに違いない。
真っ赤になって後悔するその姿を、今度こそ僕の脳内フォルダに保存しなければ。