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名前呼び

 最近は小学校で名前をさん付けで呼ぶように指導しているらしい。


 僕の時はそんなことはなく、酷いあだ名で呼ばないようにとの注意があったくらいだ。


 ちなみに僕は芽衣のことを芽衣さん、などと呼んだことは無い。


 もう覚えていないけれど、保育園の頃はみ~ちゃんと呼んでいたらしい。

 『めい』と発音するのが苦手で略していたのだと思う。


 一方で芽衣は僕をみ~くんと呼んでいた。

 『みなと』だからみ~くん。

 こっちも『みなと』が言いにくかったのだと思う。


「み~くん、あそぼ」

「うん、み~ちゃん」


 二人でみ~み~言って可愛かったのよぉ、なんて今でも母親に揶揄われたりするが、覚えていないことを言われても困る。


 それはさておき、小学校に入ると二人とも呼び方がガラッと変わった。

 僕は『めいちゃん』

 順当な進化だろう。


 芽衣は『みなと』

 いきなり呼び捨てだ。

 『みなと』としっかりと発音出来るようになったのが嬉しかったようで、用も無いのに何度も名前を呼ばれていたのをなんとなく覚えている。


「みなと、あそぼ!」

「みなとみなと、今度はパンジー育ててみようよ!」

「み~なと、何してるの?」


 中学生になっても芽衣の僕の呼び方は変わらず、いつも無邪気な笑顔を向けながら僕の名前を呼んでくる。


 ちなみに、僕の方は芽衣を異性として意識したタイミングで名前で呼ぶのが恥ずかしくなり名字で呼ぼうとしたことがある。


「なんか嫌!芽衣って呼んで!」


 と言われて、強制的に名前呼び捨てにさせられたのだが。


 しばらくはかなり気恥ずかしくて、中々名前で呼べなかった。

 幼い頃の僕でもそうだとすると、もちろん……


――――――――


「み、みみ、みにゃっ……」

「耳がどうしたの?」

「うううう~」

 

 高校生になって、すなわち芽衣と恋人関係になってから一か月少々。

 最近分かってきたことがある。

 芽衣が僕に話しかけられなくなったのは、単に話しかけることそのものが恥ずかしいだけではなく、僕の名前を呼ぶのが特に恥ずかしいからのようだ。


 油断すると名前で呼んでしまうため、口数が減っていた。

 そのせいで僕の名前はいつのまにか耳になってしまっていた。


「芽衣ったら変なの」

「~~~~っ!」


 僕から名前で呼ばれることも恥ずかしいようで、こうして名前で呼ぶと小さくビクンと肩を震わせる。

 その様子が可愛くてついいたずらしちゃうんだ。


「芽衣?芽衣?どうしたの?芽衣?め~い~?」

「っ!っ!~~~~っ!っ!」


 連続で名前を呼ぶと律儀にもその回数分しっかりと体が反応してしまうようだ。


「いじわる……しないでぇ」


 ぐはぁ、その上目遣いは反則だ!

 そういう露骨に『女』を感じさせる仕草はこれまであまり無かったので、僕はまだ耐性がついてないんだよ。


 もっとください。


 よし、少し趣向を変えよう。


「そういえば芽衣のクラスの政経の先生って誰?」

「っ!た、高橋先生だよ」

「うちと一緒か。高橋先生ってさ。ヅラだよね」

「やっぱり()もそう思う!?」

「思う思う、あのちょっとずれてる感じ卑怯だよね。授業中なのに気になって笑っちゃうよ」

「あははは、ずれてるとか言わないでよ思い出しちゃうじゃん」

「いつかポロって落ちそう」

「ぷっ、あはは、もう()ったら、止めてよ!」


 こうして芽衣が好きな話題を振ってあげれば、大喜びで反応してくれる。

 これは付き合う前後で変わってない。

 ただ、一連の会話の途中は気付いていないようだけれど、一旦会話が途切れると……


「~~~~っ!」


 僕の事を名前で呼んでしまったことに気付いて瞬間沸騰機になってしまうのである。


 これまでみたいに気軽に会話が出来なくなってしまったけれど、これはこれで良いものだと慣れるまでは堪能させてもらおう。


 尤も、芽衣にとっては、どうして自然と名前が口に出てしまうのかと、呼び慣れてしまったことを後悔しているのかもしれないが。



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