手繋ぎ
全六話、一気に投稿します。
子供は女子の方が精神年齢が高い、なんて話があるらしい。
確かに小学校高学年の頃、男子達はう〇こ、ち〇こネタで爆笑し、女子達は彼氏がどうとか話をしていたような気がする。
だがそれはあくまでも一般論の話だ。
僕は小学校の半ば頃から幼馴染の女子に真っ当に恋をしていたし、その恋の相手は中学生になっても男女関係というものを理解していなかった。
結局のところ人それぞれ、なんてありきたりな答えが正しいのだろう。
本当に?
僕の幼馴染がおかしいだけではないのか?
そんな気がしなくもない。
「湊! 帰ろ!」
だって中学生になっても幼馴染、元城 芽依の距離感がまるで幼児の時のように近いままなのだから。
「早く早く」
「待って待って」
「もう、遅いよ~!」
「!?」
園芸部の活動が終わり帰る間際、芽衣はいつも僕の手をとって一緒に下校しようとせがんでくる。
それだけではない。
「ねぇねぇ、あそこに紫陽花咲いてるよ!」
「え、ちょっ」
彼女は何か興味を惹くことがあると、全く躊躇することなく僕の手をしっかりと握り、強引に引っ張っていくのだ。
芽衣の柔らかな手の感触にいつもドキドキしっぱなしで、動揺して汗をかかないようにと必死だった。
もちろんこんなことは些細なこと。
遠慮なく名前で呼ぶし、抱き着いて来るし、僕の飲みかけのジュースを飲むし、僕の部屋に遊びに来て僕のベッドの上で寝るし、その時に下着が見えてるの気付かずに漫画を読むし……
しかも芽衣はスタイル抜群の超絶美少女に成長してるんだよ!
我慢する方の身にもなってくれ!
思春期真っただ中の男心はもう限界だった。
だから、というわけではないけれど。
中学卒業の日、僕は芽衣に告白し、僕らは恋人になった。
――――――――
高校生になり、晴れて恋人関係になった僕達だけれど、これまでの延長線上の関係とはならなかった。
例えば下校時間。
「…………」
「…………」
中学の頃は芽衣がひたすら僕に話しかけて来て、僕がそれに答えるのが自然な会話の流れだった。
でも今の芽衣は僕と目を合わさずに少し俯いて静かに歩くだけで、全く口を開こうとしない。
かといって僕から話しかけてみると。
「そういえば高校でも園芸部に入るの?」
「…………」
「ちなみに僕は入るつもり」
「…………じゃあ、入る」
やばい。
超やばい。
じゃあ、ってことは僕が入るから自分も入るってことだよね!
俯いてでも分かる程に顔を真っ赤にしてしおらしく返事をする芽衣が可愛すぎるんですけど!
僕の幼馴染彼女が愛おしすぎるんですけど!
というわけで僕も内心悶えに悶えてしまい、会話を続けられなくなってしまうのだ。
そんな今の状況を芽衣も申し訳なく思っているらしく、顔をあげて何かを言おうとして止めることがある。
その芽衣が、少し離れたところで咲いている紫陽花に気が付いてぱぁっと嬉しそうに顔を綻ばせる。
綺麗な花を見つけた嬉しさと、丁度良い話題を見つけた嬉しさが重なったからか、芽衣の体は反射的に動いてしまう。
「ねぇねぇ、あそこに紫陽花咲いてるよ!」
「え」
「あ」
つまり、中学の頃と同様に、僕の手をぎゅっと掴んだのだ。
「~~~~っ!」
そのことに気付いた瞬間ぼっと瞬間沸騰機と化す芽衣を僕はニヤニヤしながら堪能する。
芽衣は男女の恋愛に関して、初心だった。
僕を異性として意識して以降、体に触れるどころか、正面から顔を見るのも照れくさくて出来ない程に、照れまくる。
毎日がごちそうさまです!
いつもの癖で思いっきり手を握ってしまった芽衣は、あまりの照れくささに手を離そうとする。
「ご、ごめ、え?」
「どうしたの?」
だけど僕は敢えて手をぎゅっと強く握り離させない。
小さなころからずっと芽衣のことを思い続け、過激なスキンシップに耐え続けた経験から、手を握る程度で動揺などしないのだ。
これまで散々僕の心を無自覚に弄んだお返しだった。
「あ、う、ああ、あう」
う~ん、真っ赤になってキョどる姿がマジで可愛い。
「ほら、いつもみたいに連れてってよ」
「~~~~っ!」
あれあれ、少し手汗が出て来たんじゃないのかな?
ふふふ、僕のこれまでの苦労が少しは分かってくれたかな。
もちろんその程度で離しはしないよ。
「あ、あの、て、てて、手が」
「手が、どうしたの?」
「~~~~っ!」
全身プルプル震えちゃって、こりゃあたまらん。
もしもこの手を恋人つなぎにしたらどうなっちゃうんだろうか。
あの天真爛漫だった頃の行動が染みついて体が勝手に動いてしまう。
もしかしたら芽衣はそんな過去の自分を後悔しているのかもしれない。
私ったら、どうしてあんなことを平気でやれてたんだろう、なんてね。