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「……私は狩りで遠出してていただけ」


「別の用事もあるから、貴女の手伝いをしてる余裕は無い」


幸い、コイツはクロ達が森の中にいると思い込んでいる。

だが実際は、森の外……山の洞窟にいるのだ。

恐らく、発見する事は出来ないだろう。


けど、コイツは頭がよさそうだ。

私が思いつかない策を練る可能性もある。

だから、ここは頭が良いヒト。

幼馴染に、相談してみよう。

それまでの時間を稼げれば……。


「う、うそ!協力してもらえないんですか!?」


「そ、そ、そんなぁ……折角待ってたのに……」


「てっきり協力してもらえるものと思って、準備進めちゃったのに……」


コイツは、酷くガッカリした顔を見せた。

クロと同じ顔だから、少し罪悪感が湧く。


「準備って?」


「ご、合成生物です……あ、キマイラって言ったほうが判りやすいですかね?」


「この周辺にですね、30体ほど待機させていたんです……」


「その子達に、今から仕事だからご飯食べていいよーって指令をさっき送っちゃいまして……」


「ううう、あの子達、燃費が悪いからなあ……稼働時間、延ばせないかなあ……」


食事は確かに大切だ。

30体ともなれば、かなりの量を食べるのだろう。

けど。


……。


……。


何だろう、何か悪い予感が。


「……そのキマイラ達って、何を食べるの?」


「勿論、人間です」


そいつは笑いながらそう答えた。


「幸い、この近くには手頃な村があります」


「しかも、あの村の連中は狩人さんのワルクチばかり言ってました」


「聞いていて、イライラしました」


「まあ、1人だけ狩人さんを庇ってる子もいましたが、1人だけなんでただの誤差です」


「という訳で、あんな村、無くなっちゃったっていいんです」


「狩人さんだって、そう思いますよね?」


「無くなっちゃったほうが、清々しま」



ソイツが言葉を最後まで言い切る前に、額を矢で貫く。

倒れるのを待たず、転進し村へ向かう。


仮にキマイラ達があの猪と同程度の存在だとすると、恐らく村は数刻と持たない。

いや、けど、幼馴染は聡い。

勝てないと判れば恐らく何処かに避難するはずだ。


だから、きっと間に合うだろう。



間に合ってくれるだろう。




間に合って欲しい。





ああ、けど。






疾走を再開して42分後。

私は荒れ果てた村の中で、幼馴染の死体を発見した。


間に合いはしなかったのだ。


間に合うはずがなかったのだ。


村には、既にキマイラ達は残っていない。

合成術師を殺した事で、統制が解除され方々へ散ったのだろうか。

思っていたより村人の死体は少なかった。

きっと、一部は村長や幼馴染が避難させたのだろう。

その結果、自身が逃げ送れてキマイラ達に包囲された。

恐らく、そんな所なのだろう。


大きな裂傷が三箇所。

骨折が十箇所。

細かい傷を挙げればキリが無いけど。

不思議と、顔だけは綺麗だった。


意外なことに、ショックは大きくない。

ただ「ああ、そうか、残念だな」と思うだけだ。


村人達が言っていたように、私にはやはり心という物が無いのだろうか。

森でケモノ達を狩るうちに、私もケモノのようになってしまったのだろうか。



背後から、何かの唸り声がした。



今からでは、到底回避が間に合わない。

そこまで接近されていたのに、どうして気付かなかったのだろう。


ここが、森ではなく村だからかな。

それとも、やっぱり幼馴染の死がショックだったからかな。


後者だと、いいなあ。

そのほうが、私は嬉しい。

致命傷を避ける為に、首だけは右手で守った。

その右手は容易く噛み千切られた。


右手が食いちぎられたと同時に、左手の親指をケモノの眼に突き立てる。

だが、親指が眼に突き刺さる直前、ケモノの前肢で弾かれた。

こいつ、私の動きを読んでる?


体重では到底勝てそうに無い。

私はそのまま押し倒された。

反撃の手を探るが、文字通り手は無い。

右手は床に転がっているし、左手も前肢で押さえられている。

そのまま、ケモノの大きな顎が私の首筋に


「す、ストップ!駄目駄目!食べちゃ駄目!」


その声で、ケモノの動きはピタリと止まった。

聞き覚えが有る声だった。

クロ?

いや、違うか。


ケモノの背後に、アイツが立っていた。

おかしいな、ちゃんと額を貫いたと思ったんだけど。


呼吸が速くなってきた。

それと同時に、体温が下がってきている。

きっと、血が足りないんだろう。

当然だ。

今もまだ、右手の断面からは血が流れ続けているのだから。


「す、すみません、こんな事になるなんて……」


「わ、私はただ足止めしてって命令しただけなのに」


「こら!駄目でしょちゃんと言う事聞かなきゃ!」


「この子は知性も戦闘力も高いんですけど、制御がしにくいんですよね」


「因みに、この子、何か見覚えありませんか?」


「そう!狩人さんが倒した竜種の身体が組み込まれてるんです!」


「竜種って、攻撃力は高いんですけど、何か大雑把なんですよね」


「隠密行動とか、潜入行動にはまったく向いてませんし」


「その点、竜種とケモノを組み合わせたこの子は違います」


「竜種の戦闘力と、ケモノの隠密性を兼ね備えてるんです!」


「サイズも凄くコンパクト!」


「内臓が駄目になるんで多用は出来ませんけど、なんとブレスだって吐けちゃうんですよ!」


「凄いですよね!」


顔を上げると、アイツの顔がすぐ近くにあった。

額には僅かに傷跡が残っている。

私の矢が刺さった場所かな。


それにしても……。

ああ、本当にイライラする顔だなあ。


「大丈夫ですか?お話できます?」


「えっとね、私、本当の事を知りたいんです」


「狩人さん、森の中で純白のスライムに会いましたよね?」


「それ、どこで会いました?」


「あ、勿論、その傷で案内しろなんていいません」


「ただ、どの辺かだけでも教えてもらえたらなって……」


うん、意識がある間に、応えてしまおう。


「しらない」


困り顔をしたソイツはこう続ける。


「え、えっと、その、何か勘違いしてませんか?」


「私には、貴女を害する気なんて無いんです」


「その傷だって、ちゃんと治してあげます」


「ですから、その、強情張らないで欲しいんです」


「お願いします、狩人さん!」


薄れてくる意識の中で、私は再び応えた。


「あなたには、なにも、おしえてあげない」


そいつは悲しそうな顔をして私から離れた。


「そう、ですか……」


「残念です……けど、仕方ないですよね」


「手間がかかりますけど、自力で探そうと思います……」




「殺せ」



ソイツの声を聞いたケモノの牙が、私の首に食い込む。


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