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言葉

荒れ狂っていたクロの動きが、止まった。

悲しんでいたアカの動きが、止まった。

クロに襲い掛かろうとしていたアオの動きが、止まった。

1人静観していたミドリが、私のほうを見た。


「最初はね、私の中の感情が何なのか、判らなかった」


「けど、今はわかるよ、これはきっと、愛情だ」


「ちょっと思い込みが激しくて、けど誰よりも努力家なクロ」


「照れ屋だけど、何時も私を気遣って、暖めてくれるアカ」


「好奇心旺盛で、私や姉妹の為に魚を取って来てくれるアオ」


「私と一緒に歌を歌ってくれる、ミドリ」


「ここで生まれ育ったスライム達」


「私の傍で育っていった大切なスライム達」


「その良い部分も、悪い部分も」


「今の私にとっては、凄く大切に感じられるんだ」


「勿論、私達は種族が違う」


「考え方も、当然違うだろう」


「けど、けどね」


「クロ達が私に歩み寄ってくれたように」


「私も、クロ達に色んなものを与えてあげたいんだ」


「私がどんな場所で過ごしてきたか」


「どんなヒトと過ごしてきたか」


「どんな約束をしたのか」


「何処へ行こうとしているのか」


「そんな、私の全てを」


「皆にも、知ってもらいたと思ってる」


こんなに喋るのは久しぶりかもしれない。

うん、確かにクロが言ってたとおりだ。

多分、これは直接口に出して伝えないと自覚できなかった事だと思う。

少し、すっきりもしたかも。


私の言葉を聞いていたアカが、恐る恐るといった具合に私に近づいてくる。


「……ママ」


「うん」


「……本当に、アカのことが好き?」


「うん、大好き」


「……う、うん、アカも、ママのことだいすき」


割り込むようにアオが私の背中に覆いかぶさって来る。

冷たい。


「母さま!母さま!ボクは!?ボクの事は!?」


「うん、アオも好きだよ、大好き」


「……ママ、もう一回言って」


「アカが大好きだよ」


アカの後ろからミドリもそっと顔を出した。


「うんうん、ミドリの事も、勿論好きだよ」


「母さま!母さま!」


「ママ!ママ!」


大騒ぎになった。

そんな中、クロだけが沈黙していた。


「クロ?」


「……」


まだ、納得してくれていないのだろうか。

けど私はクロにも。


「……外を怖がるのは理解できるよ」


「けどね、私はずっとそこで生きてきたんだ」


「それを捨てるなんて、簡単には出来ない」


「私は外に戻るよ」


「だから、出来れば」


私はクロの顔を見ながらはっきりとこう伝えた。


「クロ達にもついてきて欲しい」


「もし怖い眼にあっても、大丈夫だよ、だって……」


心の中には幼馴染から貰った言葉。


あの時、彼女は私にこう言ってくれた。


「森以外で暮すのが怖い?大丈夫よ、だって……」


私が嬉しかった言葉を。

この子達にも。


「……だって、私が一緒にいてあげるから」







クロは黙って俯いている。

何か。

何かをブツブツと呟きながら。


「クロ……?」


何を呟いているのだろう。

私は少し近づいて、彼女の言葉に耳を傾けてみた。


「愛してるって言ってくれましたお母さんがお母さんがお母さんが私の事を」


「愛してるってお母さんが愛してるって愛を与えてくれるってそもそも愛って」


「愛って何でしょうかそれは全面的な肯定の言葉ですつまり私はお母さんに」


「全面的に肯定された私の行為が思想が身体が全て全てお母さんに受け入れられた」


「嬉しい嬉しい嬉しいです凄く満足で気持ちいいです私もお母さんが大好きです」


「だから」


ガバっとクロは顔を上げた。

ちょっと目が怖い。


「そうです、お母さん、気持ちいい事をしましょう」


「え?」


「先日は有耶無耶になりましたが、お互いの愛情を確認しあえたのですから」


「性的欲求を解消しあうのは当然のことです」


「好きです、好きです、大好きです、私も愛してます、愛してます」


接近してくるクロを前に私は後ずさる。


「いや、私の愛情は家族に対するものだと思うんだけど」


「いいじゃないですか!家族で性的な事をしても!」


「クロだけ何か反応が違う……」


その日、高ぶるクロに襲われかけたけど。

アオとアカとミドリが助けてくれた。

ああ、家族同士助け合うのって、いいなあ。




~85日目~


あれから、私達は細かい話し合いをした。

私が外に出たいこと。

希望するスライム達を、連れて行ってあげたいこと。


アカやアオ、そして無言のミドリは私の意見を肯定してくれた。

クロだけは少し渋った。


「ですから、外は恐ろしいものが一杯なのです。その点、ここは本当に理想郷で……」


「母さま、外に出たら弓の使い方教えてね」


「……ゆみって?」


「母さまが得意な道具だよ、きっと格好良いんだろうなあ」


「……アカも、やってみたい」


「うん、いいよ、アカにも教えてあげる」


「……やった」


「母さまと、私達3人でやる狩り、きっと楽しいよね」


「……まちなさい、その三人というのは誰と誰と誰なんですか?」


「え?ボクと、アカと、ミドリだけど」


「な、何でそうなるんですか!私はどうなるのです!」


「だってクロは理想郷に残るんだよね?」


「ガボガボガボガボガボガボ……」


結局、最後はクロも折れてくれた。


その後は早かった。

クロ達は即座に洞窟から離脱し、蔦を収集。

それを編み上げて簡易の吊り上げ具を作成。

洞窟の下と上から補佐を受けた私は、実にあっさりと。


洞窟から脱出することが出来た。

凡そ、85日ぶりに地上へ戻ることが出来たのだ。

私は大きく息を吸ってみる。


「やっぱり、洞窟の中とは空気が違うね、湿度も軽いし」


「母さま、この後どうするの?」


アオの質問に私は少し考える。


「そうだね……まず、村に行こうと思うんだけど……いきなり皆で村に押しかけると、凄い騒ぎになる気がするなあ」


「まあ、そうでしょうね、村って言うのはヒトの住む所ですから」


「だから、まずは私だけで村に行こうと思う。クロ達は、もう少し洞窟で待ってて」


「ええー、ボクも行きたい……」


甘えてくるアオの頭を撫でる。


「ちょっとの間だけだから、ね?」


「うん!」


「……アカも、待てるよ」


「そっか、アカは偉いね」


「……えへへ」


「じゃあ、そういう訳だから、私が村に言ってる間、皆の事をお願いね、クロ」


「……」


「クロ?」


クロは、私の手を掴むと、真剣な顔をしてこう言った。


「本当に、戻ってきてくださいね。もし、戻ってこなかったら」


「多分、酷い事になると思いますから」


外は怖い。

彼女はそう言っていた。

今もまだ怖いのだろうか。

クロの目には不安の色が。

怯えの色が。

感じられた。

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