第1話 離郷
「なんで人生ってあるのかな?」
それはたわいもない友人の一言だった。かといって彼が精神的に追い詰められていたとかじゃなく、単に思いついただけなのだろう。
「んー。そりゃ親が俺達を生んでくれたからじゃね?」
「そりゃそうだけどさ、その現実が実は違ったりするんじゃないかってたまに思うんだよ。」
あぁ、多感な奴だなぁ。まだ高校生なのに。
「気にしたって仕方ないじゃないか。それよりお前彼女できたのか?」
「できてないって、馬鹿にしてんのか?」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~家に帰宅した俺はテレビを見ながら堕落に耽っていた。アメリカ大統領交代、減税運動、明日は晴れ。ニュースを眺めながらポテチを食い漁る。両親が仕事でいない深夜は至福の時間だ。
(続いてのニュースです。アフリカからの移民を規制する法案が国会で議決されました。背景としては流行病のまん延防止を挙げており...)
どーせ、差別的な問題も絡んでるんだろうな。最近は鉱山資源はアフリカや中東などで枯渇し、逆に先進国は高い技術力で自国での安定供給の装置を開発した。国連でも資源の輸出に頼っていた発展途上国の発言力というものはなくなり、先進国による搾取の渦に飲み込まれている。全く、数年前の国際協調はどこに行ったんだ?
(続いて、連続殺人...ピッ)
さてと、そろそろ寝るとするか。明日も学校だしな。俺はいつも通りの人生を送っている。先進国に生まれた恩恵を受けてのびのびと。この先もそんな人生を。歩みたかったんだけどな。
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目が覚めると、青空が見えた。くも1つない真っ青。辺りは海のように波打つ地面。しかし、沈むことなくその上に立っている俺。何か行動したいのに体が俺の意思に従わない。
「アンダーワールドでの生活お疲れさまでした。」
頭の中から声が聞こえてくる。おしとやかで品がある。人間ではない気配を感じる。
「あなたは管理者によりバックワールドでの知識共有を許可されました。大変光栄なことです。」
なに言ってんだ?理解が追いつかないのだが。
「これよりバックワールドに移動いたします。リバイバルは3回ですのでご注意を。」
そのとたん、乗っていた海が息を吹き替えし俺の体は海に沈んでいった。自然と息は苦しくなく、まるで飛行機の窓から外を覗く感覚と似ている。俺は体の自由が奪われた現実を受け止めざるをえなかった。俺はあの夜に死んでしまったのだ。