プロローグ
…これは、夢だ。
夢に違いない。
俺は確かに、いつも通り教室で授業を受けていたはずなんだ。
今から数時間前。
俺、春先高一17歳はいつも通り高校へ行って、授業を受けていた。いつも通りのつまらない授業、眠気を誘う教師の声、外を眺めればかわいい女の子が…なんて思っていた最中だった。
突如として教室全体を異様な光が襲ったのだ。ただの光ではない。とにかく太陽の光以上にまぶしく、熱い光だ。
そうか、俺は死んだのか。教室全体を光が襲った瞬間そう、思ったのだ。
別に死んだって構わない。変わり映えのしない毎日に飽きていたところだ。どうせ俺なんてイケメンでもなければ頭が良いわけでも運動神経が良いわけでもない。死んで、ゲームのようにリセットされるのならそれでも良い。
でも、死んだらどうなるんだ?何に生まれ変わるのだろう。人間なんかよりよっぽど犬とかのほうが良い。勉強しなくても働かなくても食っていけるんだからな。
そんなヘタレ的な妄想に浸っていたところで気が付いた。
おかしい。もし死んでいるのであれば、こんなに長い時間意識があるはずがない。記憶もはっきりしている。しかも今気づいたが、あれだけ眩しかった光が今は眩しくない。ただ、白い空間の中にいるような感覚だ。立っているわけでも座っているわけでもない、ふわふわした感覚。まさしく宙に浮いているような感覚だ。
「・・・て」
耳を疑った。女性のような声が聞こえた。いや、耳で聞こえたというよりは直接脳内に響いてきた感覚だろうか。いや、どんな感覚だよそれ。我ながらよくわからない。
「・・・けて」
まただ。また聞こえた。
「誰だ!姿を見せろ!」
脳内に響いてきただろう声に反応してみる。
「・・・た・す・け・て・・・」
誰かが助けを求めている?
だが、周りには白い空間しか広がっていないし、誰もいない。空耳か。そうに違いない。
そもそも俺なんかに助けを求める奴なんていない。学校ではいつも一人だったし。いじめられてはいなかったけど、目立つ存在でもなかったし、ヘタレだし。
そんなどうでもよいことを考えていた時、突如として白い空間が消え、見たこともない場所が目の前に現れた。
古いレンガの壁。触れば崩れそうなくらい古そうだ。それに鉄格子もある。どうやら牢屋のようだ。傍には穴だらけの布団と藁。周りはレンガでおおわれているため、外の様子はわからない。
ハッと気づいた。身動きが取れない。どうやら手足をロープで縛られているようだ。
確かに俺は、教室で授業を受けていたはずだ。いつの間にこんなところにいたんだ。
そんなことを思っていると、遠くから男の低い声が響いてきた。
「あの女を連れてこい!俺の奴隷として一生こき使ってやる!」