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どうりゃええねん?もうええかげんにさらせ。

「こっちだ。」紳士は中に入って行った。


階段を降りていくと、妙に寒くなってきた。


「なんでこんなに寒いんだ?」


「まあいいから。ついてきなさい。」


一番下までくると、茶色い木製のドアノブ付きの、粗末な扉がある。


白い光があたりを照らしていた。空間全体が妙に明るい。照明があるというよりも、空気そのものが光っているらしい。息を吸うと、俺の鼻の穴に吸い込まれてゆく空気が、光の筋みたいに見える。だけど、俺の吐く息は光の筋にならない。


「ここはな、我が一族が代々ずっと研究してきた、タイム・マシンが置いてある場所だよ。」


紳士はドアを開けた。ガチャリ。


「まあ入れ。説明はそれからだ。」


中にはとてつもなく大きな空間があった。こんな空間、いったいいつ誰が作ったのだろう?東京の地下鉄駅が余裕で入るくらいのスペースに、メーターやらランプやら、いろんな色のレバーやらがそこかしこに装備されている灰色の冷たくて大きな機械があり、奥には人一人がやっと入れるくらいの大きさの球体が置いてあった。そして、ひどく明るかった。だんだん目が痛くなってくる。


「そうだ、これをつけなさい。」


サングラスが渡される。


「これこそ、我が一族が1000年以上かけてようやく開発した『タイム・マシン』だ。」


紳士はその球体を指さしてこんな説明を始めた。


これはタイム・マシンだ。こいつに乗れば、未来にでも過去にでも行くことが出来る。ただ、注意しなきゃいけないのは、一度未来や過去に行った場合は二度と現在に戻ってこれないし、未来に行った場合きちんと指定の時間に到着できたかどうか確認する術がない、ということだ。


「たしかに、未来にちゃんとついたとしても、未来からこっちへ連絡をおくることはできない。だが、過去の場合は違う。過去に行ったものは二度と今の時間に戻ってくることは出来ないが、自分はきちんとここにいたという軌跡を残すことが出来る。」紳士は言った。


「じゃあ、もしかして、最近のあのニュースは・・・」


俺は最近世間を騒がせていたニュースを思い出した。東京湾の地下深くにある地層から、「こんにちは」という文字が彫られた金の板が出土した、というものだった。

学者たちは特に大騒ぎしていた。なにしろ1万年前なんてまだ人間が二足歩行を始めたくらいの大昔である。そんな時代にきわめて純粋な「金」を鋳る技術なんぞあるはずもない。なにしろまだ火を使い始めたばかりとか、そういうレベルだ。さらに驚くべきことは、「こんにちは」なんて言葉が彫られていたことである。ありえない。それとも高度な知性を持った何者かが金に模様を刻み付け、それがたまたま現代の日本語の挨拶に相当する文字のように見えた、という偶然も考えられなくもないが、それにしても不思議な話であった。



「そうだ。あれは1万年前に行った、わしの孫が置いてきたものだ。」紳士は言った。


おそろしい爺さんである。孫を過去の世界に葬るなんて、正気の沙汰じゃない。


「孫のおかげで、わしの作ったタイム・マシンが完成されたことが分かった。本当に感謝しているよ。でも、孫を乗せたタイムマシンも今の時間に戻ってくることはできない。というわけでタイムマシンをもう一度作り直す必要があったのさ。だから、こんなに時間がかかっちまった。急がないと、取り返しのつかないことになる。」紳士は言った。


「これに乗ってどこかへ行けってのか?」


紳士は頷いた。


「いいか。今からお前には20年後の世界に行ってもらう。その時にはもう戦争は終わっているはずだ。だが、男は誰もいない。みんな戦争で死んじまったんだ。激しくやり過ぎたのさ。なにしろ、みんな石油のある便利な生活に慣れちまったもんだから、それを失いたくなかった。現に石油はどんどんなくなってきてるし、新しい燃料を奪い合って最後の一人が死ぬまで世界中が闘争状態になっちまったんだ。やがて男はみんな死んじまった。木を燃やし、魚を獲り、自然の中で生きていけるスキルを身に着けていたごく少数の女だけが、自分の死を待ちながらほそぼそと暮らしている。お前が、彼女たちを救いに行くんだ。お前が行って、彼女たちに子どもを産ませるんだ。そうすれば、我々人類は存続することが出来る。」


「白馬の王子様になれってことかい。いいね、乗った。」俺はにやりと笑った。


「いいか、これは並大抵のことではないぞ。まず向こうの世界に着いたら、女を探さなきゃならん。何しろどこに何人くらいの女が生き残っているかなんてことは誰も分からないし、20年後の世界のどこに着くのかも分からない。でも、これだけは確信できる。彼女たちは、必ず群れて生活しているはずだ。その群れを見つけ出せ。一個でもいい、群れを見つけ出したら、すぐさまそこにいる若い女と交われ。そして男を生ませろ。これで、人類は生きていける。」


思ったよりも大変そうだが、俺にとっては女にありつけることの方が重要だった。


「行く!ぜひ俺にやらせてくれい!」


紳士は急にニヤニヤし出した。


「お前の気持ちはわかるが、ちょっと待て。今日からお前さんには、いろいろなスキルを身に着けてもらう。」


「なんだい?そのスキルってのは?」


「『野生』で生きていけるスキルだよ。」


紳士は笑いながら言った。





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