[掌編小説] 生きる
『生きる』
生ゴミを捨てに行く途中、路地裏から息も絶え絶えな呻き声が聞こえてきた。これ、もしかしたら誰か倒れているんじゃないか?と思って慌てて見に行ったら、そこにいたのは人間じゃなくて舌を垂らした汚い犬だった。犬は俺の存在に気付くと、上目遣いで尻尾を振って、後ろ足を引きずりながら近づいてきた。まあその視線は俺じゃなくて透明なゴミ袋に釘付けだったけど。
「おい、これはやれないって」
なんて言いながら後ずさったものの、犬に言葉が通じるわけもなく「くぅーん」と弱弱しく鳴きながら尚もこっちに這い寄ってくる。そして僅かに距離が詰まった瞬間、犬は俺に向かって猛然と飛び掛かってきた。
(いやお前、足怪我してなかったんかい!)
とっさに身を躱そうとするも、不覚にもゴミ袋は破られてしまった。犬は散らばったゴミの中から、すかさずフライドチキンの骨を掠めて、そのままどこかへ走り去っていった。
(なんて卑しい犬なんだ)
と一瞬思ったものの、よくよく考えると生き方が 下賎だの誇り高いだのってのは所詮人間の基準で、野生の世界では生き残った奴こそが正義だよな、と。もしかしたらアイツは、社会に縛られた俺なんかよりも、よっぽど生きることに長けているのかもしれない。
ゴミ塗れになった狭い路地裏で、俺はそんなことを考えながら保健所の番号をググっていた。




