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[詩] 蔦

『蔦』


鴉が舞う曇り空から地を這う文明に届けられた一粒の種子

人工美を至上とする都会的価値観に於いて 種は悪そのものであった

だが人々の疲弊した心には

路傍の異物に注意を払う余力など残されていなかった

種は雨風に弄ばれ 瀝青に削られながら根を張る地を求めた


辿り着いたのは寂れた繁華街の掃溜めと化した路地裏

廃ビルの壊れた室外機の影で 悪は密やかに芽吹いた

路地に射す幽かな日差しを欲し 壁伝いに蔓を這わせ

数多の葉によって罅割れたコンクリートの外壁は飲み込まれたが

やはりそれを気に留める者はいなかった


視界に入ることは見えていることと同義ではない

無関心が目を曇らせれば如何なる事物も不可視化される

故に路地裏にはあらゆるものが棄てられた

吸い殻 空缶 消費期限切れの愛 段ボール タイヤ

吐瀉物 剃刀 尊厳 注射器 雑誌 ビニール袋 晩秋の夕景……

やがて緑はそれらをも覆い尽くし 人知れず可憐な花弁を開いた


或る黴臭い雨夜 遺棄されたのは生まれて間もない赤ん坊であった

だが嬰児の姿は朝日を待たず忽然と消え

あとには血の混じった水溜まりだけが……

そして赤く濁った泥水を啜りながら 結ばれた悪の実はどす黒く熟し

廃ビルの屋上を根城としていた鴉たちは

銘々その実を啄み 雨上がりの曇天へと飛び去って行った

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