6.子離れできない父と、しっかり者の兄
「…フェルナンド・マルティス公爵閣下」
え?今なんて?
フェルナンド・マルティス公爵!?
あの超絶イケメン騎士団長で有名な!?
なんで私に!?
「父様!それは本当ですか!?」
どうやら兄も信じられないらしい。
それもそのはず。こんな史上最強の天然パーマと名高い私を嫁にしたいと思う男がどこに居ようか。
これはまだ、私が15歳だった時の話。
そろそろ結婚適齢期だし、婚約の話でも来るかなとおもって夜会に友人と参加していた時期。ふと周りの殿方達の話が聞こえてきた。「あんな天パだと、自分の子どもに遺伝しそうで怖いな」と聞こえたのだ。それは確実に私の事で、凄いショックを受けた事を覚えている。確かに、自分の跡取りが史上最強の天然パーマになったら困るのだろうなと思った。それからというもの、3年間婚約の話も来なかったし、殿方から声をかけられることも殆どなかった。
そんな私に婚約とは、聞き間違い?
しかし、聞き間違いでもなんでもなくて。
「たしかにフェルナンド・マルティス公爵からなんだ。私もびっくりしてしまっている。もちろん、この話を断る理由は無い。……が、娘が婚約すると思うと悲しくて……」
なるほど、父はだからあんなに言い辛そうだったのか。
いやてか、なるほどじゃない!
やっぱりマルティス公爵なんだ。
「確かに、そのお話が本当ならこの話を断る理由も無いですし、むしろ願ったり叶ったりです。その様子だとまだ返事はしていないのでしょう?私が明日にでも返事を出しておきましょう。」
悲しむ父とは対照的でチャンスだと言わんばかりに前のめりな兄。
「レジルト!エリアナが婚約が悲しくないのか!」
父は兄の態度が気に食わない様子。
「エリアナを想えばこそです!こんな機会は滅多にありません!公爵家ならばエリアナも幸せに暮らせるでしょうし、マルティス公爵も浮いた話が無く硬派な方だ!きっとエリアナを大切にしてくださるでしょう!さらに、公爵家の後ろ盾ができれば、今後我々も賢人会などに介入して行けるでしょうし……」
兄がこれでもかというほど饒舌に父を説得している。
いやお兄様、少しは寂しがれや。出世のことしか頭にないのか!
父も兄の説得を聞いてハッとしたのか「そうだな」とか言い出した。
え、私の意見先に聞かない?普通
「という事で可愛いエリアナ、マルティス公爵には明日返事を出しておくから近々会うことになると思う。そのつもりでいてね」
兄は満面の笑みで私に言う。
さすがは儀典管長様。ほんと自分の利益には目がないんだから。
まあ私としても決して悪い話じゃないからいいんだけど。
これが貴族の婚約の現実である。