初恋の相手は宇宙人。
在り来りな光景。
言い換えればベタなんだけど……
私は今校舎の中庭に呼び出されている。
で、告白された。
ここまではヨシ。
問題はここからだった。
「好きって……へっ!?私の事!?」
「好きです……駄目ですか?」
まぁ私は可愛い方だし、告白されるのも何回目かだけどさ……
「私……女だよ!!?え!?アナタも女だよね!?」
それも問題だったんだけど、そんなのちっぽけだと思える程の問題がコチラ。
「っていうか、えっ!?今なんて言った?」
「私、宇宙人なんです。」
私、三環詩音15歳。宇宙人♀に告白されました。
───── ──── ─── ──
何から整理すればいいのやら。
とりあえずいきなり断るのも可哀想だから答えは保留中。
告白してきた子は2ヶ月前に転校してきた天音宇宙さん。
宇宙と描いてソラと読む。
名前からすでに自己紹介しているとは……
いやいや!?なに信じてるの?
嘘だよね?冗談だよね?
でも天音さんは滅茶苦茶大人しくて、ウソを付くようなタイプの人間ではない。
いや、宇宙人だからこの場合……
「あーーー!!知らんし!!!何で私が悩まにゃならんのよ!!?えっ!!?」
「詩音、授業中だぞ。どうした?青春が爆発したか?あれか、メン○か?」
「生○じゃないっつーの!!つか担任がそんな発言すんな!!アホ!!」
担任の堂ヶ島に茶々をいれられ、少しだけ落ち着きを取り戻す。
山奥の学校だからかこんなセクハラ発言も許される。
卒業して早くこんな所出てってやる。
「詩音ちゃん、大丈夫?何か嫌な事とかあったの?」
「雫……いや、それが…………ここじゃちょっと言いにくいや。放課後神社で話すね。」
この子は雨谷雫。
町長の孫で私と同じくらい可愛い。
いや、毛の差で私の方が可愛いけど。
山奥の狭い田舎町だから、この辺じゃ町長は総理大臣よりも偉い。
町長命令で、18歳未満は携帯電話を所持する事は禁止。
インターネットも授業以外禁止。
町の外に出るには町長の許可が必要。
広場には歴代町長のデカイ銅像が立っている。
北の国かっつーの。
学校が終わり、いつもの神社で雫と駄弁っている。
「もうすぐ受験だね。詩音ちゃん、西高にするんだよね?」
「私は頭悪いから。雫は一高でしょ?いーなー、お嬢様は。お互い離れ離れだね。」
「わ、私、手紙送るね。寂しくなったら夜電話しよ?」
「もー、雫はウブだなぁ。バイトしてスマホ買えばいいじゃん?」
こんな山奥だから、高校は隣の隣の隣町までいかないと無い。
私は寮生活。雫は多分送り迎えで、この北の国から脱北出来ないんだろうな。
「それでさ、さっきの事なんだけど……私、天音さんに告白された。で、彼女宇宙人だって。」
「………………ふぇ?」
そりゃそうなるよね。
私だってそうなったもん。
それでも雫なりに答えを出そうと唸っている。
「そ、えっ………………ふぇっ!?」
答え出ず。
ごめんね雫、こんな事に巻き込んで……
「あー、ゴメンね。帰ってゆっくり考えるから気にしないで?」
「し、詩音ちゃんはどうしたいの?私は詩音ちゃんが宇宙人でもお友達だよ。」
私は宇宙人じゃないからね?
どうしたいか……か。
「ありがと。なんか答えでそうかも。」
「うん、また明日ね。」
家までの帰り道、ふと空を見上げた。
星が輝き始め、どこまでも宇宙が広がる。
こんな田舎だけど、この空だけは良い所だと思う。
「星、綺麗ですよね。」
「うん、こんな所だけど空気だけは綺麗だから……ってえっ!!?天音さん!!?何時からいたの?」
「今来ました。自由に移動出来るので。」
そう言って目の前から姿を消したかと思うと真後ろに突然現れた。
まるで瞬間移動している様な……
「す、凄くない!!?えっ!?ナニソレ!?もう一回やってよ!」
目の前でビュンビュンと移動している。
兄ちゃんの本で見た事がある。
SFってヤツだ……
「ねぇ、私も移動出来る?」
「手を繋げば……でも、信じてないと出来ないかもしれません。」
「信じる信じる!あのさ、東京に連れてって。一番おまちな所!!」
「……ふふっ。いいですよ。」
そう言って彼女と手を繋ぐ。
柔らかくて暖かい。
ってなに私は照れてるんだか……
瞬きをした瞬間、雑音と共に巨大なビルの群れが私の前に現れた。
正確には私達が現れたんだけど、そんな事どうでもいいくらいに……
「お、お、おまちだーーー!!東京じゃん!!?ヤバくない!?えっ?夢?ねぇ天音さん、これ夢?」
「どうでしょう。もし夢なら……素敵な夢ですね。」
テレビで見た事のある景色。
お祭りでもこんなに人がいる事は無い。
見るものすべてが、私を刺激する。
「ねぇ、あっち行ってみようよ。」
そう言って交差点を渡る時、人が多すぎて天音さんとはぐれてしまった。
あれ?天音さんいないと帰れないよね?
「ちょっと……天音さーん!!どこー!?」
叫ぶと手を上に上げている人を見かけた。
走り寄って確認すると、天音さんだった。
「いやー、焦ったよ。手、繋いでて?離したら駄目だからね。」
「わっ………………はい。」
巨大な交差点を渡り、散策する。
見上げると、街の灯りが強すぎて宇宙が確認出来ない。
「あー、なんかお腹空いたなぁ…………あっ!!サイ○だ!!ねぇ、ここ安くて美味しいって兄ちゃんが言ってたよ。ちょっと入ってみよ?」
私の町には寂れた食堂が一つだけ。
そのくせ名前が“メルド”
フランス語でウンコって意味らしい。
「わぁ……メッチャ安いじゃん。知らん食べ物ばっかり……私結構お金持ってきたから天音さんの分も出すよ。」
「で、でも……」
「連れてきてくれたお礼だよ。ね?」
俯いて頷いている。
なんだかその姿が可愛らしくて、胸の奥がムズムズした。
メニュー表に間違い探しが乗っていて、二人で必死に探す。
これがなかなか難しい。
「えー……あと3つもあるの?天音さん分かった?」
「……ここと、あとは……ここ。それから…………ここですね。」
「凄っ。流石は宇宙人?あははっ。」
「信じてくれているんですか?」
「……そりゃぁ、こんな事普通出来ないし……それに…………」
「……?」
「天音さん、ウソを付くような人じゃないもん。見れば分かるよ?」
「詩音さん……」
料理が来て、二人で分け合って食べる。
特にこのドリアって奴が滅茶苦茶美味い。
「美味しいー♪天音さん、これ美味しいよ?」
「私、猫舌なので……」
そう言ったので、息を吹きかけ冷ましてから渡した。
「ほら、あーんして。」
「っ…………あ、あーん…………わぁ、美味しい……」
「ね!美味しいよね!」
初めて食べた料理達。
この味は、忘れられないし忘れない。
19時前。
流石に帰らないと大変な事になりそうだ。
「もう帰んないとだよね。あーあ、さらばおまちよ…………」
「……もし良かったら、また来ますか?」
「!!うんっ!!来よう!約束だよ?」
そう言って手を繋ぎ、気が付けば静寂に包まれた山奥に戻っていた。
静かすぎて、耳鳴りがする。
「うわぁ……田舎だなぁ……なんか煙の匂いするし……」
「詩音さん、今日はありがとうございました。素敵な思い出になりました。その……学校での事は忘れて下さい……」
「……なんで?忘れないよ?……返事、まだだったよね。まだ好きとか分かんないけど……もっと天音さんの事知りたい。だから……付き合おっか?」
「いっ、いいんですか?嬉しい……」
「私、恋人とか初めてだから分かんないけどね。とりあえず……キスくらいする?」
「キス…………お、おやすみなさい!」
目の前から消えて、一人残される。
色々ありすぎて、脳みその限界。
家に帰り、横になって今日あった事を整理しようとしたんだけれど……
あの光り輝く街並みじゃなくて、どう思い出しても天音さんの顔しか出て来ない。
……これってもしかして好きなんじゃ?
急に恥ずかしくなり、布団に潜る。
明日、どんな顔すればいいんだろう。
───── ──── ─── ──
「詩音ちゃん、おはよう。」
「おー雫。ねぇ聞いてよ。私さ、昨日おまちのサイ○に行ってドリア食べてきたんだ。」
「…………ふぇ?」
いきなりこんな事言っても分からないよね。
雫は悩みながらも答えを出そうとしている。
「詩音さん……おはようございます。」
雫を困らせていると天音さんが登校してきた。
参った事に、昨日よりも数倍可愛く見えてしまう。
これが恋のマジックってやつか。
「おっ、お、お、押忍!!」
テンパって訳のわからないことを言ってしまう。
「ふふっ……昨日はご馳走様でした。」
微笑んでいる彼女を見て、胸の奥が疼く。
あー、もう。なんでこんなに可愛いのよ?
授業中も変に意識しちゃって、やらかす度に堂ヶ島にツッコまれる。
でも、天音さんが笑ってるからいいや。
「まぁ色々あって私達付き合ってるから。雫にしか言わないからね?」
「わぁ……おめでとうございます。こ、恋人ってやつだよね?大人だなぁ……」
「…………」
「天音さん?雫に何か付いてる?」
「……5年後、雨谷さんに良い人が現れると思います。」
「5年後?って事は20歳かぁ……どんな私になってるのかな。」
「へぇ……人の未来も見えるの?」
「大まかな未来ですけど……自分の未来は見えませんけどね。」
未来か……
私はどんな感じなんだろう。
天音さんと……続いてるのかな?
「詩音さんの未来も見ましょうか?」
「私はいいや。天の邪鬼だからさ、言われた事と反対の未来に進んじゃいそうだし。」
その日から、天音さんと二人で過ごす時間が増えた。
天音さんは自然が好きで、湖や森の中によく連れて行ってくれた。
サイ○は私達のお気に入りで、暇さえあれば食べに出かけた。
猫舌の天音さんの為に、お皿に取り分けて平べったく伸ばすのも慣れたものだ。
手の繋ぎ方が恋人繋ぎに変わった頃、初めてキスをした。
お互い顔が真っ赤になって、そのあと二人して笑った。
いつしかソラと呼ぶようになって、心の中はソラで満たされていた。
それから暫くして、夢を見た。
夢の中で女性が謝っている。
ゴメンナサイ、アリガトウ、ダイスキ
朝目が覚めると、心の中にある何かがポッカリと空いていて……誰かがこちらを見ている気がした。
それがなんなのか思い出せなかった。
「詩音ちゃん、まだ元気出ない?」
「うん……なにか大切な事を忘れてる気がするんだけど……なんだっけっかなぁ。」
空を見上げる癖がついた。
いつからなんだろう。
空……
空を見上げると何か思い出しそうで、でも分からなくて。
空虚な心は埋まらないまま高校生になった。
───── ──── ─── ─
「やっぱおまちは違うなぁ。あんな田舎二度と帰るもんか。あー、雫元気かなぁ。」
第一志望の高校に落ちて、第二志望で受かった高校は県でも一番のおまちの近くだった。
こっちじゃおまちは方言だって知って、エラく恥をかいた。
お腹が空くと、ふとサイ○に寄ってしまう。
まるで何かに吸い寄せられるかの様に。
一人で間違い探しをしていると、なんとなく向かいを見てしまって……
ドリアを食べると何故か取皿に平べったく伸ばしてしまう。
なんでもある夢の様なおまちに来たのに、全然楽しくなくて。
空を見上げては、何かを満たそうとしていた。
ふと、すれ違った空気。
なぜか胸が高鳴る。
空虚な心がざわめいている。
振り返ると女性の影がビルの脇に消えていった。
自然と身体が動く。
後をつけると、とあるお店の中に入っていった。
「お客様、1名ですか?」
「はい、そ「2名です。」
目と目が合う。
顔が熱くなり、鼓動は速さを増す。
「…………あの、どなたですか?」
「……一緒に食べませんか?」
いつもどおり、間違い探しをする。
向かいには……向かいには誰かがいて……
聞いてもいないのに、二人分の料理を頼んでしまう。
「あれ……あと3つもあるんだ……どこだろ……」
「ここと……ここと、それからここです。」
料理が来て、いつもどおりドリアを取皿に分けて伸ばす。
その皿を自然と目の前の女性に渡してしまう。
「っ…………どうして……私に?」
「え?どうして…………猫舌でしょ?あれ?何言ってるんだろう……」
訳がわからない。
でも、分かることが2つあって彼女が涙を流している事。
それから……
「ドリア、美味しいね。」
「っ…………どうして?記憶……消したのに……」
記憶を……消す……
「……分かんないけど…………私の心にはいつも誰かがいて……笑顔が素敵な人なんだ。曇ってて顔はよく見えないけど、でも素敵なんだよ。彼女は私が好きで……私も彼女が大好きなんだ。」
瞬きをした瞬間、私の地元が目の前に広がっていた。
あの女性と手を繋いでいる。
「……この町はよく星が見えるから、ここに引っ越してきたんです。ただ、私達の中では決まりがあって……16歳を過ぎるまではこの星の人と親密になってはいけないというルールがありました。まだ身発達な子供に正常な判断は出来ないという理由なんです。」
「じゃあ、破っちゃったの?なんで?」
「……どうしても伝えたかった。私の存在を少しでも残したかったんです。結果、掟を破ったので関わった人全ての記憶を消し、この町から去りました。」
「……記憶は消せてもさ、想い出は……心までは消せないよ。だって……私の中ではまだ誰かが生きているんだもん。無意識にその人を思う度に、私は空を見上げてる。あなたは……私の大切な人なんでしょ?私は詩音。あなたは……?」
「…………詩音ちゃん……消した記憶はもう戻らないんだよ。それでも……それでもいいの?」
「……いいよ。だって……あなたも辛かったんでしょ?」
縛られた糸が切れたように、彼女は私に抱きついてきた。
懐かしい匂いが私の心を埋めていく。
新しい記憶が私の心に刻まれる。
もう無くなることはない。
初めてしたキスは、二回目の味がした。