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エピローグ 2



 その帰り道。ナナコと二人で物思いに耽りながらてくてく歩いていた。

「どうした? 由愛のことでも考えていたのか?」

「いや。そうじゃないさ」

「報告にあった人のことか?」

 あの後、ナナコや由愛、他の生徒や先生に聞いてみたが、誰もその存在を見たという人には出会えなかった。

「ああ。あれから彼女はどうなったんだろうってね」

「その人は、由愛の母の代りに消えてしまったんだったな……。ならもうこの世界には……」

「ああ。そうかもしれないな……」

 その結末を想像して、自然と視線が下向く。なら、真夜花は本当に何のために生まれてきたのだろうか? 俺は彼女のために何かをしてやれたのだろうか?

「もしかすると、真夜花は最初から存在していなくて、俺は自分にだけ見える都合のいい存在を相手にしていたんじゃないかって……。いや、彼女だけじゃない。矢追摩耶教授があの場に現れたことも、由愛の家で過ごした束の間の時間も、全部夢だったのかもしれないって……。そんな風に思うんだ」

 俺は立ち止まり、自らの影を見つめた。自身の足元から伸びた影法師は何も応えてはくれなかった。だが、その代わりに隣にいる相棒バディが指を絡める。

「本当に大切なものは目には見えない――そうだ」

 この間、由愛と一緒に行った図書室でそんな本を読んだとナナコは続けた。

「わたしにはよく分からなかったんだが、由愛は、『目には見えないから存在していないという証明にはならない』って教えてくれた。たとえば、空気や優しさ、痛み、運命とか、人との繋がりだってそうじゃないのか?」

 ナナコは、ギュッと俺の手を握りしめ、

「わたしは武蔵と繋がっていたい。武蔵が元気ないと、わたしも悲しい」

 徐々に強く込められる力を感じながら、俺は気付かされた。

 自分自身が一人ではないことに。真夜花が由愛を見守っていたように、俺も大切な存在がいつもそばにいたことに。

「武蔵が見たものは、夢であって夢じゃない。由愛もわたしも、由愛のお母さんには会えたんだ。3人が同じ夢をみるなんて、そんなのあり得ない。他の誰にも見えていなくても、それがたとえ夢だとしても、この胸に感じたぬくもりは嘘じゃない。たしかにここに存在している」

 ナナコは俺の手のひらを自身の胸に押し当てる。

「感じるか?」

 そこには、ナナコの言葉が真実だと告げるように、穏やかな鼓動があった。

「それに、またきっと会えるんじゃないのか、想い願えば、夢は叶うんでしょ?」

 ナナコは手にしたクッキーを俺の口にねじ込む。それから、俺の尻を叩いて、歩を進めさせる。

「そうか……。そうだったな」

 噛み締めると、それは少し甘くて、ほろ苦い、青春の味がした。

 真夜花はあのまま消えてしまった。でも、彼女は教えてくれたんだ。強く願えば、願い続けていれば、きっと――。

 そう言えば、ナナコには真夜花が見えていなかった。ということは……。

「ナナコには、夢があるのか?」

「ある……と思う……?」

 人差し指を唇に添えて、首を斜め45度に傾けているナナコ。

「どんな夢だ?」

「そんなこと、教えられるわけないだろ……」

 何故かナナコは、頬を赤らめて、「ばかもの」と付け加える。

「わたしより、武蔵には夢があるのか?」

「今はまだ、分からない……。でも、絶対に見つけてみせるさ」

 天を仰いで願い――誓う。

 抜けるような青空。そこには一片の雲も存在していなかった。

「よし、家まで競争するか?」

 と、一歩踏み出す。

「武蔵……」

「ん?」

 ナナコに声をかけられて俺はそちらに視線を向けた。

「前、危ない」

 そう注意され前を向くも、思考し反応する間もなく、ポヨンと優しい痛みが俺の胸を打った。

 目の前には、尻もちをつく女の子。

 どこか懐かしいような雰囲気に、俺はその少女に手を差し伸べた。

「俺は近藤武蔵。探偵だ」

「私は……」

 少女は瞬きを何度もして、視線を泳がせた。が、やがて俺の瞳をジッと見つめ、

「私はまだ自分が何者なのか知りません。だから、これから見つけたいと思います……。その……。一緒に付き合ってくれますか?」

 少女は俺の手を取った。

「ああ。もちろんさ。最後まで付き合うよ」

 俺はその手をしっかり握りしめ、引き寄せる。



 ――今、夢の扉が開く。


第二部 完


今回は、『夢』ということでシリアス多めでした。


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