第四章 「夢集いし刻(とき)」 21
麻耶は、由愛に向かって両手を広げて見せる。
「抱きしめさせて」
「え……?」
唐突な告白に思わず顔を上げる由愛。
「その……。最後……だから……」
寂しげな笑み。
「さい……ご……?」
こぼれ落ちる雫。
「さいごなんて……、そんなの……いやだよ。さよなら、なんて、したくないよ」
溢れ出る涙。
「ようやく会えたのに、これで終わりなんて、そんなの……。そんなの……。もっと一緒にいたいよ」
今まで大人しく母とのひと時を過ごしていた由愛も、ついにその時を前に感情があふれ出したのか、綺麗な顔をゆがめた。
「ありがとう。私もよ……。だけど。分かる……よね?」
――私はここにいる
そう告げるように、麻耶は由愛の胸に手を当てた。その拍子に、ふわりと麻耶の体が浮き上がる。
「私、お母さんの研究――夢、絶対に叶えるから」
由愛は顔をクシャクシャにして、麻耶にしがみついた。
「研究? 違うよ。私の夢はもう叶ってるわ。私の夢はとっくの昔に叶っていたのよ」
慈愛に満ちた微笑みが由愛へと向けられる。
「ゆめ……。ゆめちゃん……」
「はい……」
麻耶は何度もその名を呼び、由愛はその度にそれに応えた。
「永遠に愛してるわ……」
母は、娘は、きつく跡が残るほど互いの体を抱き締め合った。
が、やがてその体が光に包まれてぼやけると、麻耶は自ら名残惜しそうにその身を離した。
「ありがとう……。私の子に生まれてくれて」
そう口にすると、互いのおでこをくっ付ける。
「私は由愛ちゃんの母親になれて幸せだった」
「私も、お母さんの娘になれて、幸せです」
微笑み合う母子。これが、きっと最後の光景なのだろう。
そこにいた皆が同じ夢をみていた。
一分でいい。一秒でいい。一瞬でもこの時間が長く続けばいいと俺は願っていた。
だが、徐々に視界がぼやけ、目の前の奇跡は、完全に光となり消え去った。
と、激しい睡魔に見舞われ、まどろむ。その朦朧とした意識の中、声が聞こえた。
――ありがとう。ようやく……。これで……ゆっくり……眠れる。
それから、どれだけの時間が経ったのだろうか、気が付くとカーテンの隙間から朝日が差し込んでいた。
むっくりとナナコが体を起こし、
「朝……だ」
俺はそれに黙ってうなずく。
ああ……。夢みる時間は、終わりだ。




