表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
68/70

第四章 「夢集いし刻(とき)」 21

 麻耶は、由愛に向かって両手を広げて見せる。

「抱きしめさせて」

「え……?」

 唐突な告白に思わず顔を上げる由愛。

「その……。最後……だから……」

 寂しげな笑み。

「さい……ご……?」

 こぼれ落ちる雫。

「さいごなんて……、そんなの……いやだよ。さよなら、なんて、したくないよ」

 溢れ出る涙。

「ようやく会えたのに、これで終わりなんて、そんなの……。そんなの……。もっと一緒にいたいよ」

 今まで大人しく母とのひと時を過ごしていた由愛も、ついにその時を前に感情があふれ出したのか、綺麗な顔をゆがめた。

「ありがとう。私もよ……。だけど。分かる……よね?」

 ――私はここにいる

 そう告げるように、麻耶は由愛の胸に手を当てた。その拍子に、ふわりと麻耶の体が浮き上がる。

「私、お母さんの研究――夢、絶対に叶えるから」

 由愛は顔をクシャクシャにして、麻耶にしがみついた。

「研究? 違うよ。私の夢はもう叶ってるわ。私の夢はとっくの昔に叶っていたのよ」

 慈愛に満ちた微笑みが由愛へと向けられる。

「ゆめ……。ゆめちゃん……」

「はい……」

 麻耶は何度もその名を呼び、由愛はその度にそれに応えた。

「永遠に愛してるわ……」

 母は、娘は、きつく跡が残るほど互いの体を抱き締め合った。

 が、やがてその体が光に包まれてぼやけると、麻耶は自ら名残惜しそうにその身を離した。

「ありがとう……。私の子に生まれてくれて」

 そう口にすると、互いのおでこをくっ付ける。

「私は由愛ちゃんの母親になれて幸せだった」

「私も、お母さんの娘になれて、幸せです」

 微笑み合う母子。これが、きっと最後の光景なのだろう。

 そこにいた皆が同じ夢をみていた。

 一分でいい。一秒でいい。一瞬でもこの時間が長く続けばいいと俺は願っていた。

 だが、徐々に視界がぼやけ、目の前の奇跡は、完全に光となり消え去った。

 と、激しい睡魔に見舞われ、まどろむ。その朦朧とした意識の中、声が聞こえた。



 ――ありがとう。ようやく……。これで……ゆっくり……眠れる。



 それから、どれだけの時間が経ったのだろうか、気が付くとカーテンの隙間から朝日が差し込んでいた。

 むっくりとナナコが体を起こし、

「朝……だ」

 俺はそれに黙ってうなずく。

 ああ……。夢みる時間は、終わりだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ