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第四章 「夢集いし刻(とき)」 19

 矢追家のキッチン。

 エプロン姿の母子が仲良くクッキーを作っている。

 由愛にもらったレシピにはごくごく普通の材料ばかりが書かれていたので、うちのコンビニにある物で間に合わせることが出来たのは幸運だった。他から調達する必要があった場合、ナナコにはちょっと厳しい任務になってしまうからな。まあ、一流の料理人は材料を選ばずというところなのだろう。いくつか味見をさせてもらったが、この前もらったものと変わらずおいしかった。流石はレシピ考案者とその教え子だ。レシピに書かれていたトロロのクッキー以外にも様々な種類のものが出来上がっていく。

 調理は二人に任せて、俺とナナコは、主にクッキーの盛り付けなんかをしてサポートを担当していた。

 肩を並べ初めての共同作業を続けている由愛と麻耶。

 長い間、願い続けていた夢が叶った二人がどんな会話をしているのだろうかと、ちょっと様子をうかがう。だが、二人が話している内容は、砂糖の分量をどうするかとか、こね方や、後何分くらい焼いた方がいいとか、そんな他愛のない話しだけだった。他にもっと話すべき内容があるような気もしたが、そんな何気ない会話でも二人は何が楽しいのか笑い合っていた。

 いや、由愛と麻耶にとっては、会話の内容なんかよりも親子で同じ時間を共有している方が遥かに大切な時間なのだろう。それこそが、二人が望んだことなのだろう。

 次々に焼き上がっていくクッキーの山。

 あっという間に、ナナコが持ってきた材料はなくなり、全てのクッキーが完成した。

 時計回りに、由愛、麻耶、俺、ナナコと四角いテーブルに焼きたてのクッキーを囲む。そこでの談笑も、今日、学校で何があったとか、今度何をやるとか、俺が学生だった頃にオヤジが頼みもしないのに聞いてきたことばかりだった。

 だけど、それは奇跡のような光景で、ほんの少し前の俺には信じられないものだった。

「夢じゃないんだよな……」

 目の前の光景が幻ではないことを証明するために、俺はナナコに頬をつねってもらう。軽い頬の痛みがこれが現実なのだと主張している。

 自分だけでは心配なので、ナナコの柔らかそうなほっぺもつねる。

「いふぁいわ……」

 ナナコが言うなら間違いないだろう。

 目の前にあるのは、まぎれもなく仲睦まじい家族の姿だった。

 特別なものではないけど悪くない世界――いい現実イメージだ。

 それからも俺たちは、みんなで取りとめのない話や、クッキーの感想を言い合ったりして過ごした。

 ナナコがひそかに作ったというバナナクッキーも、なかなかにイケた。バナナチップのようなカリッと感とクッキーの甘さが絶妙にマッチしていて、みんなに好評だった。

 そうこうしていくうちに、個人的には作り過ぎだと思えたクッキーも、気が付けば残り一つになってしまった。


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