第四章 「夢集いし刻(とき)」 18
「由愛……さん」
由愛は後ろ手に扉を閉めると、キョトンとした顔でこちらを見つめていた。
「あれ? 呼び鈴、押したかしら?」
「あ、いえ、何だかさっき外が急に光ったような気がしたので、様子を見に来たんですが……。えっと、近藤、ムツミ先生? ですよね?」
由愛は訝しげに、こちらを見ると首をかしげた。そういえば、学園で化粧を落としてほぼそのまま来てしまったので、今の俺の格好はカツラをかぶった変な女装野郎でしかない。まあ、元々ベースは俺自身なので劇的に違いはしないが……。少しでも違和感を無くそうと、俺は顔を整えた。
「ごめんなさい。ちょ~っと化粧が落ちちゃったみたい。それよりもなんて言うか、由愛さんに会ってもらいたい人を連れてきたって言うか……」
俺の後ろで隠れている麻耶のことをどう説明しようかと言葉を選んでいると、
「お母さん……。ですか……?」
「え?」と背後で漏れる呟き。
「どうして……? 分かるの?」
「いえ……。分からないんですけど、分かるんです。いつかこんな日が来るような気がしていましたから。それに、いつさっき、ちょっとウトウトしちゃって、その時母に会う夢をみたような気もするんです。だから……」
背中越しの震えに、俺は鼻の奥がツンと痺れるのを感じた。
「そっか……。そういうものなのかもしれないわね。そう……。由愛さんの願いはようやく叶ったのよ。ご両親の研究が身を結んで、二人をめぐり合わせたの」
俺は一歩横にずれて麻耶を前面に押し出した。
が、なぜか麻耶は無言で顔をこわばらせている。やはり、何と声をかければいいのか分からないのだろう。その緊張につられて、由愛も俺もどうしていいか分からなかった。
と、坂の下から、テクテクと規則正しい歩みでナナコがやって来た。
手に持っているコンビニ袋をこちらに掲げて、
「持ってきた」
空気を読まない落ち着いた声色に、三人の緊張がとれるのを感じる。真夜花のために用意した保険がきちんと役に立ったようだ。
「待ってたわ」
俺はナナコが持ってきたブツを受け取る。うんうん。きちんと言われた通り用意出来たみたいだ。ナナコのはじめてのお使い成功だ。きちんと成長していて実に喜ばしい。
何はともあれ、どうやらこれで役者が揃ったようだ。




