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第四章 「夢集いし刻(とき)」 16

 心地よい囁き。首筋を熱い感触がなぞる。意識が遠のくほどの、熱い。とても熱い口づけだった。

「――――!」

 その瞬間、真夜花が過ごしてきた日々の記憶を垣間見た。由愛と出会い、共に過ごし、別れ、見守り続ける日々の出来事。真夜花が歩んできた16年という歳月。それはとても辛く、険しいものだった。だけど、その困難な道のりはどこか温かなものだった。向日葵のような眩しい笑顔。握り返された手のひら。そんな由愛との思い出が真夜花をずっと支え続けていた。

 眠気は一切感じず、それどころか、目尻に熱いものが込み上げる。

 目を開けると、満面の笑みを浮かべた真夜花がこちらを見つめていた。その笑顔はまるで既に夢を叶えたように清々しいものだった。

 ややたれ目がちな優しい瞳が、俺の目の奥をジッと覗き込む。

「これが私の姿……。ようやく本当の自分に会えた……」

 眩しい光に包まれていく真夜花。

「近藤武蔵さん。本当にありがとうござしました……。今の私には、そんなものしかあげられないけど……」

 人差し指で、艶っぽい唇に触れる。

「まさか、俺の夢じゃ駄目だったのかよ……」

 俺は、真夜花が口づけをした首筋に触れる。

「私の夢。あなたに託します」

 願いと同時に、涙がこぼれ落ちる。それを受け止めようと手を出したが、雫が俺の手のひらをすり抜けていった。

「これで、本当にいいのかよ? こんな結末で満足なのかよ!」

「いいんです。多分、私はこの瞬間のために生まれてきたんです……。あなたの言う通り、私は願っていたんです。あの子を見守っていたいと。日々立派に成長していく姿を見続けていたいと……。でも、本来の願いを叶えるのは私じゃない。だから、この体、本来の持ち主へお返しします」

 胸の前で手を組み目を閉じると、真夜花は祈るような格好をした。

「そうだったのね。彼女が私を縛っていたんじゃない。私が彼女を縛りつけていたのね……。本当に消えたくなかったのは私……」

 真夜花のお腹を中心にして光が収束し――弾けた。

 辺り一面を眩い光が満ちたと思ったら、一瞬にして光は消え去った。

 暗闇に目がついていかず、俺は目をしばたたかせた。と、真夜花がいた辺りに人影が浮かび上がってきた。

 姿かたちは真夜花と同じだったが、どうにもその雰囲気はさっきまでそこにいた人物と違って見えた。少しだけ大人びているように感じる。

「君は……、真夜花なのか?」

 俺の問いかけに目の前の女性の顔つきが変わる。

「そうであるとも言えるし、そうでないとも言えます。私は真夜花であり、矢追麻耶でもあります」


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