表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
62/70

第四章 「夢集いし刻(とき)」 15

 由愛の家は、白金の端。小高い丘の上に立っていた。辺りに他に民家らしき建物はない。これが、彩音の言っていた矢追教授の残した豪邸か。年季が入ってはいるが、廃れた感じがない。きちんと由愛が手入れをしているのだろう。

 と、悠長にしている時間はない。スクーターのアクセル全開でここまでやってきたが、真夜花の存在は少しずつ透明に近づいていた。その存在を少しでも認識しようと、俺たちはどちらからともなく手を握り合っていた。

「それじゃあ、行こうか」

 扉の前、軽く真夜花の手を握ると、返事の代わりにギュッと手を握り締められる。

 それを合図に俺は一歩踏み出した。その瞬間、フッと真夜花の手を握っていた腕が軽くなるのを感じた。見ると、真夜花が薄い光に包まれていた。

「どうやらここまでみたいです」

 淡い粒子に包まれ、はにかむ真夜花。

「そんな、なんでだよ……。会いに行くって、約束したのに、なんでもうすぐそこに由愛がいるのに……」

 いや、理由なんて考えている場合じゃない。

「俺の夢を吸うんだ」

 時間稼ぎになるかどうか分からないが、今はこんな案しか思い浮かばない。

「でも……。だけど……」

 奥歯を噛み締めているのか真夜花の頬がキュッと引き締まる。迷い、ためらい。そんな想いがありありと見てとれる。

「いいから、早く。君を由愛に会わせること。それが俺の願いだ」

 これで俺も眠り姫の一員だな……。だからと言って、俺は被害者ではない。ましてや加害者ですらない。俺はただ自らの願いを――夢を叶えるだけだ。

 目を覚ました時、真夜花はもういないだろう……。だけど、別に死ぬわけではない。真夜花はきっと大丈夫だ。一人でもやれるさ……。それに保険も既にかけてある。だから――。

「俺に夢をみせてくれよ。さいっこうに幸せな夢をさ」

 ニヤリと口の端を上げて見せる。

 それで覚悟を決めたのか、真夜花の眉がキリリと持ちあがる。

「分かりました……。でも、少し恥ずかしいので、目を閉じてください」

「ああ……。これで、お別れだ」

 最後に、その姿を目に焼き付けて俺はゆっくりとまぶたを閉じた。

 優しく肩に触れる指先。徐々に顔が近づいてくるのが分かる。漏れる吐息まで聞こえてくる。

「ありがとう……。そして、さよなら……です」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ