第四章 「夢集いし刻(とき)」 11
「これが、私の望んだ……世界?」
「その通りだ。真夜花が知らない由愛のいる世界。夢をみていない由愛がいる世界。真夜花のことなんて初めからいなかったと、あの子の中に脈々と生き続けている真夜花の面影さえもない世界だ」
「違う……。ただ私は……」
真夜花はいやいやをするように首を横に振って、自らが思い描いたものを否定する。
「そう……。そんなの間違いだよな。由愛に夢を与えたのは間違いなく真夜花だ。だから、そんなまがいものの夢を認めるなんてことは絶対にしちゃいけない」
俺は一歩踏み出す。
「冗談でも、自分が最初からいなければいいなんて、どこにもいないなんて言うなよ。本当になかったことにしていいのか? 由愛との思い出を。幸せだった日々を……」
さらに一歩前に出る。華奢な肩に触れて、優しくこちらへと引き寄せて抱きしめる。
「真夜花は確かにここにいるじゃないか。誰にも見えなくても、俺が知っている。保障する。少なくとも俺は君と出会えて良かったって思ってるよ。だから、もっと楽しい世界をイメージしようぜ。みんなが幸せになれる世界をさ」
「だけど、わたしは……。わたし……は……」
両腕に感じる痛み。何かにすがりつくように、しがみついている。
「くる……しい……」
奥歯を噛み締めた、擦り切れた声が静寂に響く。
「胸が……苦しい……」
二人の体で押しつぶされて弾力のある胸が形を変えている。
「悪い」
体を離そうとするも腕が掴まれたままなので、それは叶わぬ願いとなる。
「そうじゃない」
かぶりを振る真夜花。そのまま俺の胸板にコツンと額を当ててくる。
「分からない……。どうしていいのか。どうすればいいのか、私にはもう、分からない……」
胸元に雫が流れ落ちて染みを作る。それが、かすかに震えている。
「怖いの……。このまま消えるなんて想像したくない。忘れて欲しくなんてない……。だけど、私にはあの子に会いにいく資格なんてない」
「そんな……。なんでだよ?」
「最初に裏切ったのは私の方なのよ」
「裏切った?」
「そうよ。私は別れも告げずに、あの子の前から突然いなくなってしまった。だから、きっと傷つけてしまった。そんな人間がどんな顔して会いにいけばいいの……」
「けど、それは君のせいじゃないだろ」
夢をもった人には真夜花の存在を認識できない。そのせいで二人は引き離された。
「あの子にしてみればそんな事情は知る由もないことなのよ。だから、今さら会いに行ったとしてもきっと……。受け入れてもらえなかったら、拒絶されてしまったら、そう考えただけで……」
俺の胸に全体重がかけられる。
「忘れる、はずがない。忘れられる……はずがない。あの子は私の生きがいだった。それを失ってこれからどうやって生きていけばいいのか分からなくなった……。だけど、私はいつも期待していた。毎朝目が覚めて私の姿を見つけてくれるのを。微笑みかけてくれるのを、ずっと……」
重く、胸の奥に突き刺さる想い。




