第四章 「夢集いし刻(とき)」 7
「私は……」
言いかけて、俺は被っていたカツラを掴んだ。そして、簡単に外れないように編み込んだ地毛ごとブチブチと頭からはぎ取った。
もう何も偽る必要はない。
スカートのポケットから取り出した携帯用のメイク落としで、化粧を拭って素顔を晒す。
「これが、私の――」
その顔に似つかわしくない、高い声色を発生させているネックレス型変声機をスカートのポケットにしまって、「んん」と一つ咳払いをした。
「これが俺の本当の姿だ」
頭部は男、体は女。そんな半分女装姿の俺を、真夜花は怪訝そうに見つめた。だけど、そんな侮蔑の目を吹き飛ばすくらい堂々とした態度で自己紹介をする。
「名前は近藤武蔵。探偵業をやっている。この学園には、原因不明の眠り病事件の調査でやって来た」
真夜花は興味があるのかないのか、表情を殺したまま無言を貫いている。
「その初日に真夜花と出会い、そして、相棒のナナコの紹介で由愛とも知り合ったんだ。これはきっと運命で、俺たちは出逢うべくして出逢ったんだと思う。だから、俺は君と由愛のために何か出来ないかと考えている」
「何かしたいなんて、そんなことしてあなたに何の得があるんですか」
「そう言われると何もないんだと思うよ。でも、俺は近藤武蔵だ。探偵なんだよ。だから人助けをする。ただそれだけだ」
身の潔白を示すように、両手を広げて見せる。
「もう俺は何も偽っていない。だから、今度は真夜花が本当のことを言う番だ」
「本当のこと? これまでさんざん、この学園の生徒に嘘をついてきたあなたが、今さら何を言っているんですか?」
「ああ。そうだな……。たしかに、俺は生徒たちにとって見た目は本当の自分じゃなかったけど、その心まで偽ったことはないよ」
「ココロ……?」
「そう心さ……」
真夜花から流れ出した心の欠けら――机の上にこぼれ落ちた雫を人差し指ですくう。指先に冷たい感覚。
「君が本当に望むこと、好きなものをもう一度思い描いて欲しい」
そう言って、親指を心の臓へと突き立てる。真夜花はこちらを値踏みするように、真実の姿が見えると言った目で見つめた。俺の方も、それに負けじと真夜花の瞳の奥を覗く。
自然と絡み合う視線と視線。長いまつ毛に包まれた綺麗なブラウンの瞳が、その心を投影するようにわずかに揺れている。もしかすると、まだ彼女も迷っていんじゃないのだろうか?
今なら、俺の言葉を素直に受け入れてくれるのかもしれない。そう思った矢先、教室内が漆黒に包まれる。どうやら再び月が雲に隠れてしまったようだ。
俺は何も言えなくなる。ここで真夜花にかける言葉を間違えたら二度と彼女の心を開くことは出来ないだろう。それ故、表情の読み取れない今、下手に動くのは得策ではない。
嫌な汗が背中を伝う。
無言のプレッシャーが肩に重くのしかかる。
緊張で喉が渇く。早く何か言わなければと思えば思うほど、生唾を何度も飲み込む。
長い沈黙の末――。




