表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
53/70

第四章 「夢集いし刻(とき)」 6

 月光に輝くひと雫。

 頬を涙が伝う。

「な……に……?」

 真夜花自身、自分に何が起きているのか分かっていないようだ。

「悲しくなんて、ないはずなのに、どうして、こんなものが……」

 こぼれ落ちた雫を目にしても、その想いを否定する。頭で分かっているけど、心がそれを拒否しているのだろう。十六年もの間、見守り続けてきた子との別れになるのだ。そんな簡単に割り切れるものじゃない。

 ずっとその姿をとらえてきたまなこが、ささやかな抵抗を続けている。それをゴシゴシとこすり上げて無理やりなかったことにする。

「別れは寂しい。誰だってそうだわ。そして、それが、あなたの本心なのよ。なのにどうして、自分に嘘つくの?」

「嘘? 私は嘘なんてついていないわ。私は本当に、このまま……」

 今度は、大粒の涙が偽りの望みを覆い隠す。

「こんなの嘘よ」

 言い訳も出来ないほどに歪んだ表情。

「いいじゃない。本当のことを言ったって。夢なんて自由で自分勝手なものよ。もっと自分の欲望に素直に、わがままになってもいいんじゃないかな? どんな形であれ、せっかく生まれてきたんだもの。やりたいことをやればいいと私は思うわ」

 俺の身勝手な発言に、真夜花が鋭い視線で睨みつける。

「あなたに私の何が分かると言うんです? やりたいことをやる? そのなれの果てがその姿なのかしら?」

「私の姿?」

 一体何を言われているのか、すぐには分からなかった。だが、間髪入れずに真夜花が言い放つ。

「あなたの方こそ、偽りの存在じゃない……。女装なんかしている人に、そんなこと言われたくないわ」

「なっ!」

 自分でも分かるくらい頬が熱くなる。すっかりこの姿が板についてきて自分の今の格好を失念していた。説教まがいのことをたれておいて、その実、そいつが女装趣味の変態野郎だったなんて、どれだけ俺の姿は滑稽に映っただろう。

「ナンノコトカナ?」と思わず棒読みで誤魔化す。

「私はただのマヤカシ。だから、他人にはぼやけて見えるけど、その代りに私はその人の真実の姿が見えるのよ。あなたのこと、悪い人には見えなかったから、何か理由があってそんな格好をしていると思っていたんだけど、それがあなたのやりたいことってわけ?」

「そう……。最初から、知っていたのね……」

 わざとらしく、「いや~。自分では結構イケてると思っていたんだけどね」と照れ笑いを浮かべてみる。

 だが、真夜花は至極真面目な顔で、

「あなたは一体何者なの?」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ