第四章 「夢集いし刻(とき)」 6
月光に輝くひと雫。
頬を涙が伝う。
「な……に……?」
真夜花自身、自分に何が起きているのか分かっていないようだ。
「悲しくなんて、ないはずなのに、どうして、こんなものが……」
こぼれ落ちた雫を目にしても、その想いを否定する。頭で分かっているけど、心がそれを拒否しているのだろう。十六年もの間、見守り続けてきた子との別れになるのだ。そんな簡単に割り切れるものじゃない。
ずっとその姿をとらえてきた眼が、ささやかな抵抗を続けている。それをゴシゴシとこすり上げて無理やりなかったことにする。
「別れは寂しい。誰だってそうだわ。そして、それが、あなたの本心なのよ。なのにどうして、自分に嘘つくの?」
「嘘? 私は嘘なんてついていないわ。私は本当に、このまま……」
今度は、大粒の涙が偽りの望みを覆い隠す。
「こんなの嘘よ」
言い訳も出来ないほどに歪んだ表情。
「いいじゃない。本当のことを言ったって。夢なんて自由で自分勝手なものよ。もっと自分の欲望に素直に、わがままになってもいいんじゃないかな? どんな形であれ、せっかく生まれてきたんだもの。やりたいことをやればいいと私は思うわ」
俺の身勝手な発言に、真夜花が鋭い視線で睨みつける。
「あなたに私の何が分かると言うんです? やりたいことをやる? そのなれの果てがその姿なのかしら?」
「私の姿?」
一体何を言われているのか、すぐには分からなかった。だが、間髪入れずに真夜花が言い放つ。
「あなたの方こそ、偽りの存在じゃない……。女装なんかしている人に、そんなこと言われたくないわ」
「なっ!」
自分でも分かるくらい頬が熱くなる。すっかりこの姿が板についてきて自分の今の格好を失念していた。説教まがいのことをたれておいて、その実、そいつが女装趣味の変態野郎だったなんて、どれだけ俺の姿は滑稽に映っただろう。
「ナンノコトカナ?」と思わず棒読みで誤魔化す。
「私はただのマヤカシ。だから、他人にはぼやけて見えるけど、その代りに私はその人の真実の姿が見えるのよ。あなたのこと、悪い人には見えなかったから、何か理由があってそんな格好をしていると思っていたんだけど、それがあなたのやりたいことってわけ?」
「そう……。最初から、知っていたのね……」
わざとらしく、「いや~。自分では結構イケてると思っていたんだけどね」と照れ笑いを浮かべてみる。
だが、真夜花は至極真面目な顔で、
「あなたは一体何者なの?」




