第四章 「夢集いし刻(とき)」 1
愛用のスクーターを飛ばして、俺は白百合女学園へとやって来た。
夜の校舎は不気味で何が出てきてもおかしくない雰囲気だ。いつもは人で溢れかえっている場所が閑散としていて、それだけで変な感じがする。しかもこの学園で、幽霊が出るなんて噂を聞いていたらなお更だ。
静か過ぎる廊下に、備え付けの消火栓の赤いランプだけが煌々と輝いている。キュッキュッと上履きがワックスでコーティングされた床を鳴らす。
別にどこから捜しに行ってもいいんだが、やはり本命でもある彩音のクラスから覗いていく。
教室の扉を開けると、誰もいないはずの場所に人影が見えた。どうやらいきなり当たりを引き当てたようだ。教室の最前列中央の席のあたりに二つの人影が確認出来る。
月が雲に隠れているのか、教室内の光量が足りない。なので、顔までは判別出来ない。が、シルエットの一つは、頭の両サイドに立派なドリルを形成しているので彩音なのは間違いないだろう。もう一人は由愛……? ではないか。彼女は俺の言いつけを守って、家で連絡を待っているだろう。
パッと見、二人は抱き合っているように見える。彩音の方は随分とぐったりしている。
「郷力さん?」
一歩前へ踏み出して名前を呼んだが、彩音の方には何の反応はなかった。その代わりにもう一方の人影がピクリと動いて重なり合っていた体を離すと、彩音を机にうつ伏せに寝かせた。
俺は謎の人物の方へと歩を進める。と、教室の窓から月明かりが差し込んできた。
教室内に舞う粒子のような塵が月光を反射して輝き、闇に紛れていたものを映し出す。
机に突っ伏したままの彩音。首筋に小さな噛み付き痕が見える。
気絶? いや眠っているだけか。彩音の上半身が上下に動き、かすかな呼吸音が聞こえる。
それを見下ろしている女性。おそらく今回の事件のもっとも中心にいる人物。
「やはりあなただったのね……。赤糸真夜花。いや、矢追麻耶、それとも赤糸麻耶と言った方がいいのかしら?」
俺はカマをかけた。
放課後、彩音と別れた俺は、あの後、由愛から由愛の母親がこの学園の卒業生と言っていたのを思い出し、学園内で過去の卒業アルバムを探し出した。その結果、由愛の母親の旧姓が赤糸だということを知ることとなった。そして、アルバムの写真には真夜花のような赤糸麻耶の姿があった。
だが、おかしなことに、俺はその卒業アルバムを見るまで由愛の母親と真夜花が似ていると認識出来なかった。その理由までは分からなかったが、やはり彼女には何かあるのだろうという予感がした。
「どうしてその名前を……」
綺麗な顔が険しく歪む。
――ビンゴ!
どうやら、こいつは由愛の母親、赤糸麻耶と何らかの関わりがあるようだ。
だがこの人が、由愛の母親だとすると、明らかに年齢の計算が合わない。その容姿はどう見ても二十歳前後のものだ。
「ここの卒業アルバムに写っていたのとほとんど変わっていないからすぐに分かったわ。随分と若づくりしてるけど、良い化粧品を使っているみたいね」
今度は予想を外したのか、真夜花は首を横に振っている。流石に、赤糸麻耶本人と言うのは無理がありすぎたか。由愛が子供の頃に母親と一緒にいた記憶があると言っていたので、もしかするかとも思ったのだが……。無難に姉妹親類関係の線が濃厚か?
「ならあなたは一体何者なの?」
直接解答を求める俺に寂しげな視線が向けられる。
「私は――」
真夜花が口を開いた瞬間、
「かあさま……」
彩音がかすかに呟く。忘れていたわけではないが、どうやら彩音は無事なようだ。
「この子に何をしたの? この子だけじゃない。この学校で起きた事件の被害者をこんな風にしたのはあなたよね?」
うなずく真夜花。
「ほんの少し大切なものを分けてもらったのよ……」




